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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【体裁と生きやすさと自分の感情と】
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 部屋に戻ると、案の定というか、女性陣らはガールズトークで盛り上がっていた。襖を開けてその光景が飛び込んできても、桑原は騒ぎ立てず、首藤はいつも通り無言で自分の布団へと寝ころんだ。


「桑原なに萎れてんの」


「うるせえ」


 相澤がそう言ったのも無理はなかった。理由はわからないが桑原の雰囲気はいつもと違っていた。少なくとも、騒ぎ立てて周囲を沸かせるときの彼ではない。


「え、ごめん。もしかして私のせいかな……」


「違う違う。あいつが勝手に落ち込んでんだからいいのよ」


 申し訳なさそうな紗江を明日香が補完的役割で宥めていた。


 そんな雰囲気のせいで、先ほど大暴れしていたとは思えないような雰囲気が二十畳一間に流れていた。それを感じ取った上でのことなのか、女性陣は変わらず話し続けていた。


 私は布団の上で仰向けになった。右隣には首藤がいて、その隣に桑原の布団があった。「ちょっと外行って来る」と言伝を残して今はいない。


 六人がいる空間で私は意識的に一人になった。今日あったことを整理し始める。千紘、千紘、千紘。あの自転車の女は誰だったのか。鼻が高くて通っている、言わずと知れ渡ってしまうような美形。光を反射しても茶色に染まらない真っ黒なロングヘアー。


「ねえ首藤。さっきの自転車の人可愛くなかった?」


 右を向くと、首藤はこちら側を向いて瞼を閉じていた。


「いや、起きてるよね?」


 私はまた仰向けになる。蛍光灯。その隙間を縫う木目の入った木作りの天井。


 私は何をしに来たのだろう。探す探すと言っておきながら、実はちょっぴり逃げていたりするのも事実だった。会って何を話せばいい。「よう!」「死ね」即答。「久しぶりだね」「帰れ」卑屈。


 千紘が私のことを待っていない未来はいくらでも想像できた。


 だが消えない。唇を真赤にして待っている私が「ごめん」と謝って「もう気にしてないよ」と微笑む千紘の姿が。


「綺麗だったな」


「うん、美人だった」


「違う。綺麗だった。美人なんかじゃねえ」


 私は首藤の顔を見ることなく、すぐに瞼を閉じて意識が遠のくのを無心で待った。


 雑念を追い払った。



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