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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【体裁と生きやすさと自分の感情と】
78/128

3

 脱衣所に着くと、ほんのりと甘い香りが漂っていた。女性陣が持参したシャンプーの香りだろう。三人とも別種のシャンプーだろうに、その香りは混ざっても気疎くない。桑原なんかはさっそく「これ紗江ちゃんのシャンプーの匂いかな! 相澤のだったら殺す」なんて言ってはしゃいでいた。


 そんな裏腹、あくまで孤立を貫こうとする首藤は、下着を脱いですでに裸になろうとしていた。どちらかというと疲弊しきっている様にも窺える。でも本当は楽しかったんだろう? そう問いかけてみようかと思ったが、飲み込む。

 二人とも羞恥はないようだった。タオルを持たずして浴室に入り、首藤は当たり前のように洗い場の椅子に座ってシャワーを浴びていた。誰にも侵させない、占拠している模様。桑原は湯船に飛び込んだ。


 身体を流して私も湯船に浸かった。人肌にぬるく、肩まだ沈むことができた。どっと疲れが湯に染みだしたようで、心地よさが体中に沁みた。


「なあ武田、なあ武田」


 桑原が押し寄せてきた。湿らせている髪の毛のおかげで普段とは違う印象を受ける。だがすぐに脳内で(つが)う。


「この湯船に紗江ちゃんも入ったんだよな?」


 子犬みたいに麗しい目で問うてきた。正直やるせないが不快な感情は込み上げてこない。私は素直に答えた。


「うん、確実に入った」


「紗江どころか他の三人も入ってんだろ」


 振り向くと、身体を流し終えた男が湯船に足を入れようとしていた。肩まで浸かると湯船からお湯が溢れ出ていき、音を立てた。


 首藤が湯船に入り三人の距離が近くなったせいで、私の羞恥は積もりそうだったが積もらない。二人が身近に感じられた。


「だ、だよね」


 首藤との先ほどのじゃれ合いで親交が深まったのか、親しい間柄と話すような口調だった。


 浴室の雰囲気は息詰まっていなかった。温泉のように常にお湯が出されている訳ではないので、誰かが口を開かなければ静寂に近い。桑原は淵に肘をついて手の甲に顎を乗せて何か考えていた。首藤は膝を抱えて俯いている。おそらく寝ているのだろう。


 私は空いた洗い場へ行き、ボディーソープで身体を洗った。そしてまた浴槽へと戻り、入れ替わるようにして桑原が洗い場へと入った。


 結果、あの話題以降これと言って何か話す訳でもなく、終始無言のまま私たちは風呂場を出た。


「首藤寝てなかった?」


「寝てない」


 ドライヤーもまたひとつしか置かれていなかった。首藤を先頭に、また三人で交代して使った。


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