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残された野郎三人。何か話そうかなと話題を探していると、不意に桑原が話し出す。
「新平さん」
首藤に何か言いたいみたいだった。この二人も初対面で、私は二人が話している姿をまだ見ていなかった。もしかすると、これが初めての会話かもしれない。
改まったように正座をしていた桑原。そんな彼とは対照的に首藤はスマホ片手に寝ころんだままで「ああ?」と呟く。相変わらずで、そんな光景を見て安心した。安心したと思ったら、
「どうすればあんな風に女を手名付けることができるんすか! 教えてください先輩!」
また何を言い出すかと思えば。さっきまでの女性陣への反逆は何処へ消えてしまったのか不思議でならない。
首藤は「しらん」と一蹴。「そんなこと言わないで教えてくださいよー」と寝ている首藤の肩をゆっさゆっさしている。終いには、「もしかして先輩、今、女とラインしてるんすか! 見してください!」と首藤のスマホを取り上げる。
「返せ!」
さすがの首藤も怒りを覚えたのか起き上がって桑原の手に自分の手を伸ばしていた。
「教えてくれたら返しまっす!」
必死にスマホを取りに行く首藤だが、それを掻い潜るように桑原が腕を振っている。ああ微笑ましい光景。首藤もついに相澤の立ち位置になったのか。感慨深い。傍から眺めて、湯飲みで温かいお茶を飲んでいる気分だった。
そんなくだらない時間はあっという間に過ぎ去っていった。気づいたらすぐそこに美菜の顔があって、「起きた?」と聞こえた。ぼやけた視界にピントを合わせると、彼女は胸元の弛んだTシャツを着ていた。しかしすでに耐性がついているせいか欲情はしなかった。注意すらしなかった私。
起き上がった私は、美菜の髪が濡れていることに気がつく。周りを見渡すと、相澤がヘアオイルを塗っていた。明日香は顔にペタペタと化粧水を縫っている。
「あがったから入ってきていいよ」と火照った赤みを頬に残し、美菜は言った。
自分が寝てしまっていたのはわかっていたので、「桑原と首藤はもう行った?」と聞くと、「あんな感じ」と美菜の指さす先に視線を映せば、未だにじゃれ合う二人がいた。
「桑原と首藤、もう仲良くなったんだ」
私がそう言うと、「でしょ?」と「違う!」の混ざった声音が聞こえた。
似た者通しなのだろう。きっとそう神様が私に伝えている。