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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【体裁と生きやすさと自分の感情と】
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 女性陣たちの恋愛観や愚痴だけだったら、「風呂に入ってくる」と私もその場を抜け出そうとは思わなかった。


「武田と美菜ちゃんってどういう関係なの?」


 誰かが言うだろうなと思っていた言葉は相澤の口から出た。薄々どこかでそんな流れになりそうだなと予感がしていたせいか、躊躇なく「俺、風呂入って来る。もう沸いてる頃だろうし」と言い放った。冷やかされることも予測できたが、実際に返ってきた言葉は、「女が先でしょう? 桑原の入った湯船とか浸かりたくないんだけど」という相澤の言葉だった。


「ああー? 俺のどこが汚ねえーってんだよ相澤あ! 紗江ちゃんは別に俺の入った後の風呂でもいいよね?」とすかさず桑原が騒ぎ立てるが、紗江の困った顔を見てすぐに萎れた。


「あはははは! 残念桑原ー」と相澤。


「いやでもまだ、明日香さ、」


「私も桑原の後は嫌だな」と明日香。


「うん。激しく同意」と思わず笑みをこぼす美菜。


 明日香はすでに桑原呼ばわり。桑原も桑原で明日香さん呼ばわり。舎弟になったのかな。


 美菜は美菜でほとんど初対面であろう桑原を見下した口調。女って怖いのか我が強いのかわからない。みんながみんなそうとは言えないが、そんな偏った印象を受ける。


「どいつもこいつも汚い汚いって俺を馬鹿にしやがって。いいしな。俺には紗江ちゃんがいるし。思ったとしても口にしない可愛い困った顔の紗江ちゃんがいるし! お前らと違ってずっと見てられるわ!」


「それって自分のこと汚いって認めてるじゃん」


 その美菜の言葉がよほど刺さったのか、桑原に苦悶の表情が浮かぶ。


「ほら言ってやんなって紗江ー」と明日香が促している。


「ちゃんと言ってあげないとこのバカ桑原には通じないんだよ? 一生期待されて一生付きまとわれるんだから。そんなの嫌でしょ?」


 相澤は紗江の肩を両手で掴みながら促す。美菜は相澤の隣で変わらず微笑んでいる。


「いや、でも、別に桑原君のこと嫌いではないし……」


 その言葉を聞いた桑原は、勝ち誇ったようにさっきとは打って変わった勢いで飛び跳ねた。


「ほらな! ほらな! 紗江ちゃんはお前らと違っていい子なんだよ。そんなんだからいまだに彼氏ができないんだよ、バカ女どもー」


 桑原はぴょんぴょん跳ねながら皮肉った。


「うそー」と驚きを隠せない明日香と「うるせー童貞!」と鋭く言い放つ相澤。見慣れた光景に歯止めをかけるのはいつも私の役目だったが、今の私はそんな気分ではないのだ。しょうがなく隣の布団の上で寝そべっている首藤に、助けを求めようと手を伸ばして肩を揺するのだが、彼は寝てしまったかのように瞼を閉じていた。


「え、嘘。首藤さっきまでスマホ見てたよね? 何で寝てるの? ねえ、何で?」


 私がそう言うと、閉じた瞼の目尻に徐々に細かい皺が寄っていき、閉じた口角にも皺が寄っていった。隠しきれないと思ったであろう首藤は、「ああーもーうるせーなー」と物憂い気怠さ眠気すべてを乗せて呟き、身体を起こして「どうでもいいからさっさと風呂入れよ」と女性陣に言い放った。


 それに従って、比較的苦も無く女性人たちは浴場へと部屋を出て行ったのだった。


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