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「ここが皆さんの泊まる宿です」
おおー、と女性陣から声が上がっていた。外装は、木造の道の駅を彷彿とさせた。正面の玄関の横には自動販売機が二つあって、その赤と青が、木目を残す木造りの宿に映えていた。
私は驚かなかったものの、外気に晒された蛇口が珍しかったのか、桑原は楽しそうに捻って水を出していた。その様子を窺っていると、蛇口に橙色のネットがぶら下がっていた。ネットには黄色い固形石鹸が入れられていて、かすかにレモンの香りを漂わせていた。よく見ると、石鹸の形もレモンのようだった。
そういう雰囲気に、気を失せるような人たちではなくて本当に良かったと思った。少年のような眼差しでネットの石鹸を泡立てる桑原。その後ろから覗く四人の女性。興味がなさそうに頭を掻く首藤。
私は、本当に恵まれていた。