表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【あの日の裏】
57/128

「そんなことないと思うよ」


唐突な呟きは、私を現実に戻した。泣きそうだった。漫画みたいだった。私の心を読んだかのように明日香は、胸の前で縮こまらせていた両腕を私の首の後ろに回した。


「どこにもいかないでよ」


そう言って身を寄せる。


何度か聞いた、聞き覚えのあるその言葉は、きっと愚かな自分への試練だと思う。


人を好きになるきっかけは、もったいないくらいに転がっていた。それに反応しきれない私は、いつまで経っても愚行を繰り返す。


どこにもいかなきゃいい話なんだ。ミナトだって明日香だってずっと一緒に居ればいいだけの話だった。そうすれば多分愛情を毎日感じられて、そのうち本当の意味で愛を知ることができる。充実した日々を送りながら、愛情が少ししか入っていなかった器をだんだんと満たしていくことができる。人間になれる。なのに私はそうしない。怖くなんかない。でも一緒にはいられない。私を愛そうとしてくれる人がいるのに。一途な君も、容姿端麗なあなたも、私にはもったいないくらいで、輝いて見える。


もう訳がわからん。


「奏太君はどうしたいの?」


重力によってベッドに広がった明日香の髪は、いつも見ていたものではなかった。顔の輪郭がはっきりと見え、


 綺麗だったんだ――。



「家、帰りなよ」


私はそんなことを言っていた。


「成人式終わってからろくに寝てないんでしょ? 家に帰って寝たほうがいいよ。千紘のことはありがとう」


私は明日香の手をほどいて、ベッドから立ってしまった。数秒経って明日香もベッドから抜け出し、部屋に置かれていた荷物に手を伸ばした。


そのまま無言の時間は続いた。気まずくなかった。それでいいと思った。矢先。


「そんな言葉が聞きたかったんじゃないのに」


明日香はそう言うんだ。


「そんなんだから千紘が整形なんてするんでしょ! いい加減気づけよ馬鹿」


整形、と発された言葉を置き去りにして、地雷を踏んだときのような追憶が再び私の目の前を流れた。


出ていく明日香の姿が、あのときの千紘に重なって見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ