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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【あの日の裏】
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「はいこれ」


そう言って差し出された明日香のスマートフォンには、QRコードが映っていた。


「これが私のQRね。追加したら裕子の連絡先もあげるから。一応要件は私からも伝えておくから。あとは会うなり電話するなり自分でやってね」


そう言ってまた頬を膨らませる明日香の姿が視界に入った。



きっと私は単純なんだろう。わざとらしい仕草や思わせぶりな態度も、全部私の中で煩わしさとなってしまう。でも本当はそんなことどうでもよくて、嘘だったとしてもその態度が本当に嬉しくて、心の中では彼女を自分のものだけにしたくなる。そんな衝動に駆られる。


気づいたら、「もう一回キスしていい?」なんて私は明日香に聞いていて、明日香も「いいよ」って答えてくれていて、そして何度も何度も同じ口づけが繰り返される。



部屋の隅で体育座りをしている、求愛行動を知らない虚ろな目をした子どものように、手の届く場所に置かれているものだけなら、それをあたりまえのように求めた。キスしたところで、抱き合ったところで、愛情を感じたところで、それは一瞬に過ぎないんだということを私は知らないみたいだった。彼女をベッドに優しく倒し、その上から覆いかぶさるようにして口づけを交わす。この恍惚感が、愛されているという実感が、永遠に続いて欲しい、永遠に続けたい、そんな思いからか、息を吸うことも忘れてただただ彼女と肌が触れているということに酔いしれていった。


本当は必死だったのかもしれない。だが、明日香はなぜか嫌がらなかった。私は今どんな顔をしているのだろう。彼女にはどんな顔が見えているのだろう。怖くないのかな。怖い顔してないかな。そう思って一度口を離すのだが、「もっとしてよ」って頬骨を上げてとろけそうな嫋やかな顔で彼女が言うから、もう少しだけって、その時間の中に閉じこもった。そうやってまた一つ、また一つと永遠に訪れない今に擬態して、後悔を積み重ねた。


一方的な感情移入なんてたかが知れている。疑似的に体感した人間の愛情だって知れている。もっと求めろって。反応を聴けって。互いに愛していなくちゃ意味がないだろうって。



愛情の量が、二人とも同じだったらどれだけ幸せなんだろうな。


私はまだ、愛を知らない。


私は浅ましい人間なのか。


それでも私は愛を知れない。


どれだけキスをしても、どれだけ求められても、自分の醜い部分は消えなくて、認めていたと思っていたのに認められていなくて、醜さが浮き彫りになって申し訳ないという気持ちが込み上げる。


セックスなんて物理的な気持ちのよさを感じる恍惚は、射精の一瞬だけだ。じゃあなぜ行為の最中気持ちがよくなってしまうのかっていったら、相手が自分を求めてくれていたり、一緒に居られる時間が尊く感じられるからだった。


いつからだ。自分が大切じゃなくなったのは。いつからだ。自分よりも他人の方が価値が上になったのは。これは優しさじゃない……。


前から知ってたけど、人間に向いていないんだよな。


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