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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【あの日の裏】
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申し訳なさは確かにある。でもそれ以上に今の私が払拭したいのは、この頭からついて離れない千紘が教室を去って行くときの横顔だった。別のことを考えたい。もっと楽になりたい。頭を使うのは疲れる。もっと気楽に何も考えないでいたい。そういうことだった。


過去が消えないことは私が一番知っていたはずなのに、それを許してもらおうとどこかで期待している。その期待が消えない。頭では許してもらえなくてもいいと思っていても、実際に千紘に謝ったとして、「ふざけんな」と殴られ、目の前で泣かれたら、謝ったくらいでは私のこの申し訳なさは絶対に消えない。


もし仮に殴られ泣かれたとしたら、千紘はずっと闇を抱えてこの数年を過ごしてきたはずだ。泣いて殴るのはそういう証拠だ。その辛い想いと、私が今払拭しようとしている想いを比べれば、どう考えても今さっきポッと偶々思いついた程度の私の感情の方が軽い。軽すぎる。絶対に天秤は私の方に振れない。浮いてしまう。


「そう、だよ、な」


私は反論できなかった。たとえそれがパリピの明日香だったとしても。容姿端麗な明日香だとしても。色気が消えない明日香でも。普段適当なことを言っていそうな明日香でも。たとえ明日香のことを見下している自分がいたとしても、これは逆らえなかった。


「もうしょうがないなー」


俯いていた私が振り返ると、頬を膨らませて俯く明日香の姿があった。でもすぐに顔を上げて、


「チューして」


なんて言った。


「は?」


「チューしてくれたら裕子に連絡とってあげる」


「えっとそれは……」


「私の口からは言えないから。裕子なら知ってると思うし。だからさ、ね?」


そう言って明日香は目を閉じた。少し顎をしゃくって見下ろす私の唇を早くと促した。


「明日香はそれでいいの?」


「いい訳ないけど、今はそれでいい。我慢する」


キスをすることに躊躇はない。だが、彼女の言葉が彼女の想いを物語っている。本当にそれでいいのか。天秤にかけてみよう。いや、天秤にかけちゃまずいだろ。そんな雑念が永遠と続くことは、ここ最近の自分を振り返れば明らかだった。


私は明日香の首の後ろ、両肩の上あたりを右腕で包み込み、そっと自分に寄せた。彼女の唇に私の唇が触れた。閉じた彼女の唇を私は自分の舌で割いた。嫌がられるかな、という余念はすぐに消え去り、絡まる彼女の舌が私の勢いを止めなかった。


 上唇を吸って、


 鼻がくっついて、


 また絡まった。


「ほっぺにチューしてくれるのかと思った」


そう頬を赤らめながら言う明日香は、どこか満足げな表情に見えた。


「奏太君ってやっぱり手馴れてるんだね。すごくよかった」


「うるさい」


でもやっぱりそんな満足げな彼女の顔から切なさを感じ取れてしまう私は、彼女の心を深読みしすぎているのだろうか。自分ではなくて、他人に対して被害妄想を膨らませている。


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