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とりあえず落ち着きを取り戻した。
「なんか、成人式だったのに他の人と会わなくてよかったの? 俺なんかと一緒にいることになってなんか申し訳ない」
「ううん。全然。式のときに大体懐かしい顔見て雑談したからいいの。裕子となんて、久しぶりすぎて、盛り上がっちゃったし」
「裕子って誰だっけ?」
「え、裕子覚えてないの? 同じクラスだったじゃん。千紘とよく一緒にいた子だよ」
千紘……。
今さっきまで見ていたようなあやふやな映像が、頭の中に浮かび上がった。私の身体はまだ高校生で、千紘も高校生。
また申し訳なさが浮かんできた。
「千紘って今どこにいるか知らないんだっけ?」
「う、うんまあ。っていうか、そんなに千紘のこと気になる?」
そう言って明日香はべッドの横に腰を下ろしてきた。手を突いていた私は、さらに身体を起こして絨毯に足をつけて隣に座った。
質問に答えようと何気なく彼女の顔を見たつもりだったが、昨日のカラオケでの像が瞬時に思い出され、私は恥ずかしくなって顔を背けてしまった。
「いや、ちょっとさ、高校のときいろいろあってさ……」
「いろいろって何よ」
明日香は身体を寄せてきた。頬のすぐ横に彼女が感じられてしまうくらいの距離で。
「俺が図に乗ってたっていうか……」
「どういうこと?」
明日香は私を問い詰めようとしているみたいだった。その迫力に気圧される。
耐えられずに私は立った。
「ま、まあ、そんなにたいしたことじゃないんだけどさ、ちょっとした失言っていうか、今までそんなこと気にしてなかったのに、今更になって罪悪感が込み上げてきたというか、謝りたいなっていうか……そんな感じ」
「それって自己満足でしょ?」
そんな明日香の唐突な簡素な言葉は、深く刺さった。
「だって、それって自分の中のモヤモヤしたのを消したいだけじゃん。謝れば済むわけじゃないのに、自分が今モヤモヤしてるからって千紘はそんなこと望んでないのかもしれないのに、自分勝手に謝るなんて、都合よすぎない?」
見透かしたように彼女は言った。なぜだろう。明日香は俺と千紘との関係を知っていたかのようだった。
正論だった。