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だんだん大きくなる連続した簡素な単音が、私の腕に力を入れさせる。瞼が開ききらない薄目で見れば、ベッドの脇で携帯がぶるぶると震えている。昨日の晩に、普段毎朝七時に設定してあったものを止め忘れたのだろう。
スムーズを止めてから私は再び枕に顔を押し付ける。
「頭痛てえ」
顔を上げて、また枕に正面から顔を投じようとするのだが、その視界がだんだん暗くなる感じが私の理性をついばむ。
咄嗟に飛び上がった。
「え! どうなったんだっけ!」
「こうなったんですー」
身体は暑いものに触れたときのように敏感で、素直で、驚きと身震いが全身に走った。見えたものを疑いなどしない。
「ひゃあっ! 何してんだお前! 勝手に入るな!」
「いやーねえ。ここまで連れて来てあげたの誰だと思ってるのよ。あんたら三人寝始めるから、私が一人で送ったのよ? ちなみに、奏太君のお母さんにもちゃんと挨拶して上がってるんですからね? 感謝して欲しいくらいよ」
動揺を隠せていない私は、そのときに自分が白いワイシャツを着ていたことに気がつく。しかし、一番下のボタンが外れていたことに気がつく。
私が別の部分を見ていたように見えただろう明日香は、
「ああ大丈夫、大丈夫。全然一線とか越えてないから」と言った。
「一線って何だ? 一線って」
「え、そこまで言わなきゃ駄目? そりゃあ、」
「いい、いい、言わなくていい。わかったからもういい。それならそうと早く言ってくれればいいんだ。わかってる、わかってる。それで俺をこの家まで送ってくれたってことだよな? ありがとうありがとう」
冷静になりつつ言葉を並べていった私だったが、視界に入った白いくしゃくしゃしたものが妙に気になって、私を挙動不審にさせようとする。いや偶々だ。捨て忘れただけだ。うん、偶々。
「じゃあ、明日香はここに泊まったの?」
「うん。まあ来たって言っても二、三時間前だから、ぶっちゃけ寝てないけど。泊まったっていうほどでもないね」
私はその姿をベッドで横たわりながら見ていた。色気を消させない緩やかなカーブを描く長髪。おそらく髪を整え直したのだろう。一回自分の家に帰ったのか。
今まで人が入ることのなかった空間に、よく素性も知らない女が足を崩して座っている。息をした、感情を持つ、心臓の動いている生命体がすぐそこにいる現実感。受け入れがたいが、受け入れてしまう。