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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【不純と謳われる所以】
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「遅いよー」


駅を出てすぐの人だかりの中に割って入ると、同じような顔をした他人がごまんといた。待ち合わせている相手の女性とはそれなりに多くの時間を共にしているはずだが、共にしている時間が彼女と同じくらいの人間が他にも数人いたので、感覚が鈍っているのはそのせいかもしれない。


彼女は一際目立つ格好と言うほどでもないが、熟年女性にしては若さを繕っているように窺える。駅前のレールに腰掛けた彼女は、白い花柄のシースルーのワンピースを着ていた。一見シンプルでかわいらしいと思いもする。すらりと伸びた脚がどことなく巨大な液晶画面に映る類のものに見え、少しの期待を抱いて上へと視線をずらせば、それなりに膨らんだ胸が見える。そして、膨らんだ期待と共にまた上へと視線をずらすと、今までとは釣り合わない表情が見えてしまう。


彼女曰く、「顔がコンプレックス」らしい。私からしてみればそんな顔そこら中に転がっているし、実際今さっきも、周りの人間と調和して同じ顔に見えていたわけで。


「男のあなたにはわからないかもしれないだろうけど、遠くで見られるのと近くで見られるのとじゃ違うのよ」


そう言われたこともあった。確かに遠くから見たほうが輪郭や細部がぼやけるのかもしれないとは思うが、それほど変わってしまうものなのだろうか。感じ方次第だろうと声にはならない言葉を彼女に向かって呟いてみる。



むさ苦しい駅を出て比較的大きな交差点を渡る。暮れなずむ空とちらほらと街灯が灯る歩道の上、わらわらとした人だかりの中を進み、他愛もない世間話をしながらビルの間を抜けていく。


その会話の中で、「整形すればいいのでは」と提案したところ、「職場や友人に合わせる顔がない」のだそうだ。


世の中に溢れる人間というのはつくづく他人や身近に起きた変化、テレビの映像への好奇心に敏感で、それが一度や二度のことではなくなった頃、人は成長したこととなる。幼少の頃に知らなかったルールが今では身についてしまった。幼少の頃思うがままにして来たことを今はやろうと思えない。生きているだけで先人たちや今生きている人々の生活に溶け込むような、気づけないようなしきたりみたいなものが多い。


敏感になった自分は、敏感になっていることへ懐疑的になれない。致命的欠陥だ。


だから他人という存在はとても偉大なものだ。嘘だろうと偽りだろうと、自分の思い至らないことをほのめかしてくれたり、はっきりと映しだしてくれたりする。


そもそも整形が悪いのではない。もっと掘り下げれば、遺伝、感性が悪い。皆が整った顔に生まれれば……。善し悪しの概念がなければ……。異国の人間の「美しい」の概念は自国とは異なるはずだ。不細工な私がどこかの国へ行き、空港を出た途端女が(たか)って止まない国もあるはず。それは大袈裟だが、少なくとも、ハリウッドスターの顔をイケメンだという人と日本人の方が格好いいと思う人に分かれるはずだ。


顔の七変化にあなたは対応しきれるだろうか。


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