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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【変わってゆくのはいつも風景】
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「武田君って私とあんまり話したことなかったよね?」


突然の紗江の問いかけは、心こそ躍らせないが事後的に(ほころ)びを誘発する。


「今思い出せるのは、文化祭のときぐらいかなあ」


「そういえば、武田君と生徒会同じだったよね。会報委員だったっけ?」


ああ、そういえばそんなこともしていたなと悪びれる。誰かに、原稿を書いてください、と押し付ければならない事案が二か月おきに起こる。同じ生徒会だった明日香もそれくらい人望を使ってやってくれればいいのにと何回か思った記憶がある。


「そうそう、俺も会報委員だった。体育館で椅子並べたときと、スクリーン作ったときかなあ、紗江と話したのは」


「覚えてる覚えてる」と紗江は、顔だけ捻る私の方に身体を向けてきた。「スクリーンを立てるパイプみたいの私が持ってたら武田君が持ってくれたんだよね。椅子並べたときは、私が遅れてきたらちゃんと並べ方教えてくれたし」


そんなこともあったなぐらいだったが、よくそんな数回の関わりを覚えているものだ。逆なのか。数回だからか。


「よくそんなこと覚えてるね」


「いや、まあ……」


「高三の文化祭って言ったら、あのバスパンが流行ったの何だったんだろうな。皆履いてたし。男も女も。他の学校もそうなんかな」


「私も履いてたー! なんでだったかもう忘れちゃったよ」


紗江。高校のときは、周りの野郎どもが騒ぎ出す種を、無意識に()く女だった。無意識だから否めないのだ。だが今はどうだ? 振袖を着て、髪型が上がっていて、かんざしが刺さっていて、白い肌に口紅が赤い。顔立ちは変わらない。


美しい。単純にそう思った。今思うと、なぜ高校時代にこの女に私は魅了されなかったのだろうか。私の心を揺すって傾かせるに足る武器を彼女は持ち得ている。なのにあの頃の私はその隣の女を好いていた。それは今の私が変わってしまったからなのか。


「武田君ってなんかちょっと雰囲気変わったよね。前はなんかもうちょっと怖かったというか……」


「え、それってどういう……」


「おら付いたぞ! さっさと着替えろ小童」


「言われなくても行きますー」


前に座る二人の声は、私たちの会話に釘を刺した。


「紗江も早く行くよ。髪とかさなきゃ」


うん、と答え、明日香を追うように紗江は音を立ててドアを開けて出ていった。


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