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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【変わってゆくのはいつも風景】
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「新平免許持ってるんでしょ? それぐらいしか利用価値ないんだから運転してよ」と見下すように笑いながら運転席のドアを開けてどうぞとでも言いたげな明日香。


「マジで事故るぞ。俺が教習終わってからどんだけ乗ってないと思ってんだ」と一応反論新平君。


「いいよ事故らないから。どうせ少しぐらいは運転してんでしょ? なんとなくだけど」


表情変えずに首藤は運転席に乗り込んだ。「奏太君は後ろでいいよね?」と促されて私も後部座席に乗る。私が助手席の後ろに行き、隣に紗江が乗ってきた。明日香は助手席に乗る。


「私たち着替えなきゃなんないからまず私の家ね。案内するから」


明日香の言葉に、「ちゃんと案内できるんだろうな? 女は地図が読めないだとか方向音痴だって聞くぞ」と首藤。「そんなこと言うならここで下ろしてってもいいんだからね」と明日香に言われると、舌打ちをしながらキーを回してギアを入れる首藤だった。なんだかんだ言ってちゃんとやってくれる。高校時代からそうだった。


出発して窓から見えるのは相変わらずの低い建物、店、東京に住んでいる者から言わせれば廃れたガソリンスタンド、定食屋、なんかであろうか。奥に必ず見える山と開けた空が何よりの田舎であるという証拠で、そこに田園風景が加わればより一層私たちの服装は不釣り合いになる。田舎にスーツと振袖だ。なんか釣り合わない。一般人と芸能人を並べたような。


明日香と首藤は何か話している様だった。なんだかんだ言ってちゃんと運転している首藤。


なんだか懐かしかった。忘れたはずの時間。ちれぢれになった欠片が紡がれていくようだった。そこにいるのは私ではない私で、その周りにいるのはやっぱり他人で、でもそれが他人事のように思えなくて、相互作用が働いているようには思えなくて、それが普通だと思っていた頃。懐かしさや郷愁は万国共通異口同音、同想。それを今、体感しているのだろう。


狭い動く箱の中に他人が三人いるってだけで息苦しくなる予定だったのに、その居心地の程度は、想像よりいくらか和らいでいた。その原因は、否応なく懐かしさに浸れているからだった。否定していた過去や忘れていたそれが、今リアルに受け入れられてしまっているという矛盾。おかしいなと違和感を覚えることも多々ある。だが、それ以上に彼らのことを思い出して笑ってしまう過去がそこには、私の頭の中には、まだこびりついていた。


高校時代、担任に頼まれて「嫌ですよ」と答える首藤の言い回しは日常であり、常套句だった。もはや口癖のように使っていた。それをからかうようにはやし立てる私。たまにそこに明日香が偶然割って入ってくると、それが担任と私の笑いを誘う。最終的には、ちゃんと担任に依頼された印刷物を倉庫に取りに行くあたりが彼の良さだと知っている。


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