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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【変わってゆくのはいつも風景】
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木々の揺れる先。固まった雪が沿道に飾られた花々のように、彼女たちが走ってくる道を輝かせていた。だんだんと近づいてくる様は、正に私を求めていてくれるのだと錯覚するに足るものだった。悟った私は即座に目線が散漫になり、傍から見ればおろおろしているようにも見えただろう。それだけはあのときから変わらない。結局目線は首藤の顔へと移された。


「誰か来たけど」


首藤は私の目線を察したのか、態度を訝しんだのか、私の目線を遮るように彼女らの方へと向いた。首筋綺麗だな、なんて思えていたら私は正常じゃない。


「俺の苦手な人が来た」と首藤は私に投げかけた。確かに絡みづらさもあると思う。今の私もその類である。


「奏太君久しぶりー!」甲高い声は私の頭ではなく心に響いた。


振袖を着て並ぶ二人は、一歩間違えば覚えていなくても当然だった。でも覚えていた。どうやら忘れていたはずの時間は、ちょっとやそっとのことで蘇るらしい。顔立ちがよくて、鼻が癇に障らない程度に小ぶり。眉が細くて唇の形がいい。そこから形作られる頬の影は、世の男性を虜にしてしまっても何ら不思議ではなかった。以前はそう思っていた気がする。


私は何を口にしていいのかわからなかった。目はちゃんと彼女らに向いているのだが、それに口がついてこない。見とれているのか? いや逆だろう。


明日香(あすか)さんと紗江(さえ)さんだっけ?」


隣を振り向くと、首藤がそう尋ねていた。


「あれもしかして新平(しんぺい)? めっちゃ久々じゃん! 髪短くなったね!」


苦手としていると言った割には二人の会話は何事もなく進んでいて、空気もこれといって変わった様子はない。向こうの創芸館のロータリーからも後ろのテニスコートからも黄色い声はちゃんと聞こえていた。


首藤が煙草を灰皿に入れたので、私も慌てて突っ込んだ。


私と首藤と同じクラスだった明日香はいいとして、隣に居る女。紗江って誰だっけ? なんて言う奴はとぼけているのかもしれない。誰もが知っているような美少女だった。高校時代、正直私は友人から「え? 前ミスに選ばれた人だよ」と教えられるまで知らなかったのだが、どうも校内ではそこそこ名が知れ渡っていたらしい。そこから廊下で見かけるたびに注意深く顔を見てみると、納得してしまった。


紗江と目が合った。一瞬怯えてしまう。


私は鼻を触りながら(うつむ)く。


「えっと、何か用事でも?」


紗江に話しかけた言葉を明日香が自分に当てられた言葉のように受け取った。


「そうそう。写真とろーよって話! ほらこっち並んで並んで」


手招きをするように私と首藤を自分の隣に並ばせようとした。首藤は、当然というか、「俺はいい」と決まり文句みたいなことを溢したが、明日香の手によってそれはあっけなく阻まれる。左手首を引っ張って無理矢理隣に居座らせようとする。首藤がつまずきそうなくらいの勢いだった。


その結果からか偶然からか、男女男女の並びになる。右から首藤、明日香、私、紗江という並び。紗江のスマートフォンで四人が身を寄せるように撮られた写真だった。首藤はポケットに手を入れてそっぽを向いていたのだが、「そんな格好つけてんじゃないわよ」とあえなく諭されて渋々といった表情で写真を撮った。


「新平顔やばすぎでしょ! 葬式でする顔だよ! これ」


紗江のスマートフォンを皆で覗くと、やっぱりそっぽを向いて表情の硬い首藤が映っていた。それでも苦手という割には上手く馴染んでいるように見える写真だった。どこかのアーティスト写真のような。


「わかったわかった。だからさっさとあっち行け。馬鹿が移るし、きんきんうるせえ」


首藤は追い払うように手で払い、ポケットから煙草を取り出して火をつけようとした。だから、彼女の言葉には正直一瞬驚きを隠せなかった。


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