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意味があった。
「久しぶり」
「おう」
簡素な言葉を並べて首藤は火をつけた。
「俺にも貸してくれない?」
「なんだ持ってなかったのか」
首藤は見るからに安っぽいライターを私に手渡した。
火をつけた。
煙がのどに引っかかった。むせながらそれを白い空へとふかす。
「首藤は暇なの?」
「暇ではないかも」
「誰かと話したりした?」
「うん」
「行かなくていいの?」
「俺がこの前風俗行った話するか」
首藤の横顔は、怒っているようにも平常を装っているようにも、平常にも見えた。見つめる先は、私の顔ではなくて、火種の先端。テニス少女たちの甲高い声が響く中、それでも甲高い声の方が聴くに堪えられた。
「どうだった?」と私は聞いた。
「穴を間違えた」
「汚い」と即座に応えられた。そっちじゃない、と答えなかった私はまだ正常。
独り言のようにつぶやかれた言葉は、その通りになった。会話は途切れ、煙草は二人とも三本目にかかろうとしていたが、それでもそれでよかったのだと思う。結果的には。
徐に懐かしい声がして、目線を移した。「やっぱり」とそう思えた私はすごく、すごく人間だったと思う。