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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【変わってゆくのはいつも風景】
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創芸館は公園の敷地内に存在する。テニスコートの横を通るようにして歩いていくとき、灰皿を見つけたが、行ったそばから吸うのもどうなのだろうと思い、その欲をしのぐ。


人はいた。それはもうたくさん。いくらか知った顔もいたが、声が掛けられるほど話した記憶はない。


着飾った(きら)びやかな人と黒服集団、頭だけ明るいまばらな人間を置くと、私はそこにいるべきではないことがはっきりとわかった。建物の中に入ろうと足早に進んでいたときに、「よう」と後ろから声をかけてきたのは、芦沢(あしざわ)だった。


「なんか全然懐かしみがないな」


「そりゃあ、何回か遊んでるしね」


都会に出てからも、芦沢とは何回か顔を合わせていた。いつも見ていたのは私服姿だったため、今日ばかりかはずぼらな芦沢も凛々しく見えた。顔立ちは変わらないのに、紺ではない今どきの黒スーツのせいで、より一層若者らしさが際立つ。


そんな偶然一緒になった芦沢と話していると、そこへまたもう一人男がやってくる。


「奏ちゃんと芦沢ー。久しぶりー! 去年に飯行った以来じゃない?」


もう一人高校の同級生の中で割と仲が良かったのが朝田だった。彼の印象は陽気というのが最も当てはまると思うのだが、実際我々以外と接しているのを見ると、意外とそうでもない。大人と話すときなんて特にそうで、謙虚と謙遜しか当てはまらないような真面目学生だった。まあ、目上の人間を敬うのは人間界の当然のしきたりなので普通といっちゃ普通なのだが、最初にその謙虚と謙遜を見たときは「お前誰だよ」とその差異に驚愕した。


「なんかみんな成長したって感じだな」と芦沢が言うと、それに反論するように「ええー? そうかな」と朝田が言う。


会話はどことなく高校生だった頃を匂わせるのに、私一人だけ何かが足りないのというが感じられた。胸の奥を(くすぐ)られる。比較されて浮き彫りになる。順応しているのは表面上だけで、仮面の下の表情はやっぱり引きつっている。事あるごとに喧嘩腰で突っかかる芦沢のくだりも、それに毎回飽きずに訂正しながら反撃に投じる朝田の態度も、今そこでその姿を見られているからそう感じられる。


「そろそろ中に行く?」


対面して、身振り手振りで語り合っていた二人は顔だけ私の方を向いた。


「そうするか」


「うん、いつまでもこんなクズと一緒に居たくないしね」


「それが余計なんだ、アホ田」


相変わらずだった。久しぶりに開いた。唇を舌で舐めながら、建物の中に入った。


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