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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【ジェンダー】
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男だから牽牛でなければならないとか、女だから織女でなければならないとか、男だから力が強いだとか、女だからひ弱だとか、そういう生まれ持ったものや歴史や文化の上で成り立ってきたものを否定するつもりはこれっぽっちもない。できない。いや、本当は否定したいよ。真っ黒なスカートをおしゃれな男性が履いていたり、カタツムリやミミズのように性別が無かったらなんて考えてみたり、成人したら自分で性別を選べるようになって好きな人と結婚出来たり。男女の概念は崩れ去って、人が街で裸を露呈していても誰も疑問に思わない世界だったり……。


そんな想像が頭を駆け巡るが、実際そうなればいいと、胸を張って言えることではないのだ。男である私が女に一時の憧れを抱くのも、私が男である視点での物言い。実際に女になってしまえば、きっと汚点を見つけて「ああ、男の方がよかった」と顧みるに違いない。どちらにも利点難点が備わっていて、それを選ぶ権利ははなからないのだ。ここはそういう世界。


生まれ落ちたら落ちたそこの環境で生きていくしかないのだ。自分の能力、身体、そのすべてを駆使して生きていくしかないのだ。そうすればそのうち「こんなところで生きていくのは嫌だ」と嘆いたことなど忘れるだろう。人間は忘れる生き物なのだ。そういう環境に置かれればそうなるし、ああいう環境に置かれればああなる。そういう環境からはああいう環境がおかしく思え、それはああいう環境も然り。もし輪廻転生が存在するのなら、前世のことなど覚えていないだろう? 生まれ変わったことすら忘れてしまうのだ。


そう。生まれ変わると、以前の自分のことなんて眼中になく、忘れてしまうのだ。


私はそれを存分に駆使したいと思う。今は死にたい気分ではない。生から逃れず、死から逃れたい気分だ。だから、忘れるという機能を存分に駆使できる場所を探し続けていた。環境を変えることで生まれ変わり、生まれ変わることで忘れる。そんな場所を探し求めていた。


そしていつか大切に水を与え続けた花の茎を絞めあげ、終いには大輪の花さえ摘みとってしまうことを夢見て。


日中の燦燦と照らす太陽の元で吸う煙草ほど不味いものはない。夜中の日が落ちて呉れた深々とした闇の中で吸う煙草ほど旨いものはない。肌に触れる優しい障りと、ぼやけた月が注ぐ少しの明かりが私にはちょうど良かった。闇に散布して消え行く煙霧(えんむ)が、どうも私の(かん)(くすぐ)っているみたいだ。


そうやって、また知らない明日が降り下りてくる。


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