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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【溶けてゆく雪】
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窓を開けると淀んだ空気を浄化するように、冷たい風が部屋に吹き込んできた。ヒーターを付けたまんま、数分その窓は開けっぱなしの状態でいることになる。


身体が寒さを覚えて鳥肌がたった頃には、雨が雪に変わっていた。上空の温度が豪く低く変化したのだろう。


多少なりとも充足されていた期間は、遠い昔のことのように思えた。最近は、ここ数か月間は、新しい恋人によってまたそれとは違った別の心のゆとりを充足してきた気分だった。


雪がアスファルトに触れて形を無くす。水溜まりの一部となる。これからどんどん積もっていくのだろうかと思う。そのうち雪の結晶が溶けるまでの時間が長くなり、溶ける前にまた結晶、また結晶、というように積み重なって白さを作っていきそうに思える。


原型はなくなった。昔の国語の教科書を思い出す。黒い一匹の魚と、多くの赤い魚。彼らは重なり合って形態を変え、違う生き物を表現した。なりきった。この雪は、それと何ら変わらない。


雪は私に何かを伝えようとしている。大きなマグロにでもなりきって、「行くな」とでも伝えているのだろうか。


思ったよりも早く積もり、水溜まりの一部が白く色づき始めていた。もう一面が白に染まりつつある。窓から見える木造の古びた橋が、白みがかりつつある。その橋の上を、一人の老婆が、頭を白く染めながら焦る様子もなくキャリーカートを引いて歩いていく。積もった結晶たちの隙間を埋めるかのように、雪はキャリーカートに踏みつぶされ、圧縮され、水に。橋には二本の線が緩やかに伸びていく。


『大事なものを自分から失うときってどんな感情だと思う?』


逡巡(しゅんじゅん)した。狂わせた。幾度となく反芻した。そのたびに迷った。いたたまれなくなった。叫びたくなった。


自分は感傷に浸れるような、物事に意味を見出せるような、そんな人間になれているのだろうか。否、そもそもなるべきなのか。


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