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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【溶けてゆく雪】
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コインロッカーベビーのニュースが私の耳に届いたのは、梅雨と間違えそうなほど雨が降り続いていたときだった。晴耕雨読の雨読だけを見習うかのように家に閉じこもっていた私は、惰性でネットニュースに目を光らせていた。何かに目を背け、自分の中の(わずら)わしさを肯定して日々を送る。でも実は、不特定な俗事になら興味があった。


薄暗い空間で電気もつけずにパソコンから放射される光に、眼球の疲労を蓄積させる。疲弊しきっているはずなのに、それがやめられない。惰性は怖い。


「ここが現場の――」


テレビでリポーターが甲高い声で現状を伝えている。それを片耳で流し、私はパソコンへと心を映していた。


感じない。でも事件の概要は次々に羅列される文体によって、私に甲乙つけがたい事実を押し付けようとする。


カタカタとキーボードを叩き検索するも、当然赤子の写真など乗っているはずもない。なのに、私の想像力が彼らの泣き喚く悲壮を創り出してしまう。私にとっては未曽(みぞ)()の出来事で、受け入れがたい事実であったのは確かだが、「可哀想だ」なんて表現することはできない。


都内のコインロッカー。言葉もままならない、手足もおぼつかない、髪の毛なんて伸びていない赤子。ふっくらとした柔らかそうな頬。まん丸い透き通った瞳。何をされているのか現状が把握できない。雑音をバックミュージックに、母親が「ごめんね……」と静かに呟いて母親の顔がどんどん削られていく、光が遮断されていく。そして扉は完全に閉まる。


完全に光がなくなったところで、赤子は泣き喚く。ぷるっとしたまだ何者にも手を加えられていないような純白にも透き通っている肌は、途端にくしゃくしゃになる。


光が遮断されて色がなくなる。自分に色がない。どうしてだ。外から聞こえる効果音や話し声、雑踏などの生活音は、まだバックミュージック。


喚く喚く。でも誰も気づかない。気づいて欲しいと思っていない。泣くのは赤子の特権。癇癪を起すのは反発から。言葉がないから。伝える方法が他にないから。これから手に入れるであっただろう未来は、ここで幕を下ろす……。


――キューという音とともに、赤子に色がつき始めた。泣く赤子を母親は必死に涙ながらあやす。「ごめんね、ごめんね」「やっぱり私にはこんなことできない」って抱きながら母親はそう言うのだ。


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