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ベッドの端でスースーと音を立てる寝息。うずくまっている様にも見える。多分、自分の身体に見合わない変化を押し付けていたのだろう。今まで自分を取り繕っていたのだ。そりゃあ本当の自分を見られるのが怖かったことだろう。
床には彼女の鞄が無様に広がっていた。
私も生まれ変わったら鞄になって、職を全うしてやるのに、と願う想いは後ずれされた。今自分が情けない顔をしているんだろうなということが十二分に理解できてしまう私は、彼女のことを放り出して沈みたいという焦燥に駆られる。
窓際に寄ると、カーテンの隙間から夜景が見えた。綺麗な三日月が光を放っていた。ここから見る夜景も捨てたものではない。もう少し高い位置から眺めれば、より美しく見えることだろう。誰かの笑ったときの目みたいな三日月は、絶え間なく光を注ぐ。
増田さんのことがわからないということが、私に蟠りを形成させるのは、きっと今までの経験と知識が通用しなかったせいだろう。知っていても辛ければ、知らなければ当然もっと痛い目を見させられる。
満月と三日月以外、月の満ち欠けの呼び名を私は知らなかった。だからこの見えた月が本当に三日月なのかわからなかった。
より知識を豊富にそろえようか。
どっちも嫌いだ。