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数日前。
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「『カスティーヨ!』」
「おお、珍しく共鳴したな。だがちょっと待て。今対応中だから二十分、いや三十分くらいしたら折り返す」
そう言い残すと一方的に電話を切られた。
私と増田さんは、駅を出てすぐのところに立っていた。時間は黄昏にかかっていたので、今もすでに人で込み合っているのだが、これからそれ以上に仕事終わりの会社員やOLで溢れることになるだろう。
左斜め後ろあたりから聞こえる若者の電話に耳を澄ませていたのだが、ふと右を見ると俯いた増田さんの姿が目に入る。デニムのジャケットにベージュのスカート。ヒールの先を眺めるように手を後ろに組んでいて、ああ、要するに暇なんだなということを理解する。
「ごめん。もうちょっとかかるって。四十分くらいかな?」
私の声に無言でこちらを向いた彼女は、自分の上唇で下唇を包み、頷く。
あえて何か話しかける、という思考にまでは至っていないが、こちらが待たせているということもあり少々の罪悪感を覚えていたので、気まずさは取って無くならない。今日初めて話したも同然のような彼女と、都内に出て駅のすぐ横のパン屋の壁にもたれかからせている。