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「なんか実習で増田さんと一緒になったからさ、どんな人か聞きたくて」
「お前まさか、俺たちとの時間を楽しみに来たんじゃなくて増田さんのことを聞きに来たって言うのか? この薄情者め。俺と相澤がどれだけ武田に愛情注いだと思ってんだ!」
桑原は立ち上がって大袈裟に身体で表現する。挙句、「愛情を注ぐ」という表現なのか口をすぼませて私の頬に唇をつける。
「桑原ってよくそんなことできるな」
「まあお前のこと好きだからな」
「『え』」
私と相澤は驚きながら目を合わせるのだった。
相澤が「桑原ってゲイだったの?」と聞くと、「そういうのじゃねえ! これだから日本は嫌なんだ。愛情表現の一つだろう! ていうか、そう受け取れ。すぐ人をゲイにしたがんな! 全国のゲイを侮辱するな」と真顔ながらも、漫才半分にことを訴えている。ように見える。
変わらないな。変わっていく人が多い中で、こいつらと関われたのは誇りに思える。
「で、増田さんのことが知りたいんだっけ?」
話の読める大人な女性の相澤さん。いや惚れるよ。本当に。
私が頷くと、相澤はかったるい顔はせずに、少し口角を上げて話し出した。
「うーん。いい意味でおとなしいんだけど、そんなにおとなしすぎるって訳でもないのよね。普通にはしゃいでる姿も見かけたことがあるし……でも、おとなしい姿も見るからどうなんだろう。根暗なのかな?」
「顔はかわいいよな」と桑原が口を挟む。「あのちょっと目の細い感じが好きなんだよ」と言うと、相澤は軽蔑するかのように「へえー、桑原ってああいう子がタイプなんだー」顔を背けた。
「いやいや、一番は相澤だから心配すんなって」「えっ、きも」、と素で言い合える、且つ嫌味がない桑原や相澤が羨ましく見えた。それがこの関係性なのだろう。この中に私は本当の意味で混じれない。
「そう言えば、武田って恋愛とかするの? そういう話全然聞かないけど」
「こいつはそんなもんに興味っ、」「あんたに聞いてない」とニヤニヤした桑原は相澤に頭をはたかれる。
私は答える。
「そもそも女の人苦手だし」どの口が言う。「女の人とあんまり関わらないし」あれれ。「恋愛とか苦手だし」熟知してるよね。
「女って言ったら相澤くらいしか話さないし、それもなければ皆無って感じ」
「あ、そうなんだ」
相澤は落ち着きがない訳ではないと思うが、自然な眼の落とし方に少し違和感があった。私は、その私と相澤との温度差に敏感になる。
空気を変えたい気分だ。
「相澤彼氏いないんだったら武田と付き合ってやればいいじゃん」
突拍子もない桑原の声に、思わず私は振り向いてしまう。
「恋愛を知らない武田に四の五の言う前に一から教えてやれよ。何食ってんだか知らねえけど育ちがいいんだからさー」
つつつと桑原は視線を落とした。
「スケベ!」と相澤は顔を真っ赤にしていた。一心不乱にじゃれ合っているみたいで、相澤の表情は桑原に向き続けているため、ちゃんと見えなかった。
「ていうかさ、そもそも相澤って処女なの?」
その桑原の言葉にいったん時間が止まったかのように相澤の動きが止まり、次第に相澤の顔は横に伸びていった。
「ばか!!」と頭を叩くのだった。