*
増田さんの風格は堂々としていて、やはりこういうことに慣れているんだろうかと感じる。口こそ開かないものの、結露したグラスを触る指先、目線、それらの一つひとつが女性らしさ、大学生にしては大人びた風貌を創り出していた。もっとも、私がずぼらであることにも関係していそうなのだが、彼女の意識していないのに纏っているきめ細やかさに、私は繊細にさせられてしまう。
「増田さんって実家は東京?」
「違うよー。栃木。田舎なんだー」
キュっと口角のしまった顔が愛らしい。目は合わせてくれない。
「じゃあさ、彼氏とかいるの? こんなところ二人できて大丈夫?」
その質問には「えっ」と言葉を詰まらせ、私に向けられた顔には驚きと訝しむ表情が混ざっていた。口を指で隠しながらも目が細くなっていたので、それほど場違いな質問ということにはなっていなさそうだと思う。
手を口元から無造作に机の上に移し、彼女はこう言った。
「武田君って女の子の扱いに手慣れてたりするのかな?」
椅子に座っていながらも、内心慄いてしまったことを自覚する。自分が下質問に対してのイエスかノーの答えを待っていただけに、その質問は柔らかい感情を帯びさせながらも、私の心を動揺させるには十分だった。
「い、いや、そんなことは……」
よく考えれば言葉にする前に、現状、彼女の個人的な背景も予測できたのだろうが、やはり無意識というのは怖いもので。多分、図星だったのだ。彼氏と喧嘩でもしたのだろう。自分の中で秘めていたものを誰かに脅かされそうになると、声まで上ずってしまう。
「昨日別れたんだー、実は。それでちょうど今日ナイーブになってたんだ。まさか知ってたわけじゃないよね?」
私は勢いよく顔を左右に振る。
「だよねー。でも、結構この状況って嬉しかったりもするんだよねー。なんか少女漫画チックじゃない? 彼氏と別れた次の日に、ちょっとだけ気になってた男の子がお茶に誘ってくれるなんてさ。おまけに知らないはずの恋愛の話まで振ってくれるなんて、勇気出して隣の席に座ってみるもんだねー」
やはり、と思った。昨日ショックなことがあったみたいだった。その割には朗らかな表情で淡々と話す。そのせいか、普段は絶対に起きないような非日常的な出来事、偶然がいくつか起きているにもかかわらず、私もつられた否か、淡々と口調を進める。
「それって、逆に俺が傷をえぐるようなことしてない?」
「いやいや、してないしてない。寧ろ、ちょっと嬉しいし。失恋した女に付け入るなんてなんて男だー、とはちょっと思ったけどね」
「いや知らなかったし……滅相もない」