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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【余裕のない哲学者】
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正直何を言っているのかちゃんとは理解できていないと思う。間違って解釈しているかもしれない。でも、考えている時点で興味を持っていることは確かで、自分の中の空虚な器に何かが満たしていくのは感じられた。だが、普段から考えるのを好んでいるとはいえ、ない頭の私が理解するのにはやっぱり少々の苦痛を伴った。


「あくまで僕は、」と言った上で、教授の結論的には、意識の外部のことは考えなくていいということみたいだった。ヘーゲルが「意識に現れた対象を自分がどう了解するか」みたいなことを言ったそうで、「まさにこれが一番大事で、知は正しいものをみなし、否定を繰り返し正しさへ向かう」とかなんとか。正直、理解しがたい。突き詰めるとカオスで、理解できないとうざくなって考えたくなくなるのは私の悪い癖だろう。客観的真実が重要なのではなくて、共通認識、共通了解が重要であるということらしい。まあこれが俗にいう、真ん中に偉人が描かれた横長で長方形の和紙だったり、仮想通貨や法律だったり、スクールカーストだったりするのだろう。カーストは少し異なる気がするが。


主観と客観だったり、知覚、認識、確信、意識に囚われているなんて考えだしたらきりがないのだろうから、ひとまずケリをつけるべきだと考えたのだろうか。偉人たちはこんなことを毎日考えていたとなると、私だったら頭が、気が狂いそうになる。


結論。興味あったけど嫌いになりました。


とはいえ、九十分という限られた時間の中で考える分にはいい刺激だった。気づけばいつもより時間が早く進んでいて、寝ることもなく、隣に意識が飛ぶこともなく、真面目な大学生らしい有意義な時間になった。とは思う。



「なんか難しかったね。図とか書いてくれてたけど正直よくわかんなかったな。武田君わかった?」


「俺も正直ちょっとね……。まあ久々に真面目になった気がするけど」


「そうだよね! いつも寝てそうな雰囲気だし!」


大きなお世話です。と喉から出てきそうになった言葉を飲み込んだ。



私はペンと珍しく価値のあるレジュメプリントを丁寧にナップサックにしまった。そして帰ろうと席を立とうとするのだが、そのとき不用意にも、彼女の行動に少々の驚きを抱いてしまった。


傍目で見ていたので本当かどうかはわからないのだが、意味もなく自分の鞄をあさっているように窺えた。


そのせいか気づいたら、


「この後、時間ありますか?」


って聞いていた。


昨日格好つけてミナトにあんなこと話したが、全然格好よくなかったわと顧みる。


無意識が最大の敵だと思った瞬間である。


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