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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【余裕のない哲学者】
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一時間も電車に揺られれば、私の大学の最寄り駅へと電車は止まる。最寄駅から大学までは、なんと五分弱。素晴らしい立地条件だとは思うが、多くの大学生にとっては私と正反対の感情を抱かれることだろう。何と言っても、周りに若者染みた施設が少ない。ただそれだけの理由だ。とは言っても、大学近くのバス停から三十分もバスに揺られれば、都内有数のターミナル駅を持った特別区に行ける。バスでその程度の距離なので、歩いてだって行ける。そう考えれば、そんなに悪くない大学だとは思う。


そんな大学で講義を受けるのだが、どうもクーラーが壊れているらしい。正直、暑い。人の臭いにまみれているようで、体臭と制汗剤の香りが混ざったような匂いがする。おまけにこの部屋は風通しも悪いようだった。どうも居たたまれず教室を出ようかと席を立とうと思ったとき、視界の端の影と机に鞄を置く揺れと音に敏感だった。隣に人が来たのだ。


「あ! 武田君だ。珍しいね、こんな前の方に座るの」


話しかけてきたのは、増田さんだった。同じ学科で、たしか少人数のクラスでたまたま一緒になったことがあるというだけなのだが、よくもそう、人の名前を憶えていられるものだ。と言っている私自身も彼女の名前は覚えられていたのだから、不思議と悪い気はしない。


「後ろ混んでたから。ほら、暑いし、この部屋」


手をひらひらさせながら私は返答した。自分で言っておきながら、おどおどしているなというのが客観的に認知できた。彼女はそれを見兼ねたのか私の心情を読み取ったのか、「私ってそんなに怖い?」と言って来るので、「寧ろとっつきやすいかも」とだけ返答しておいた。


「それにしてもなんか本当に暑いね、この部屋。クーラーついてないよ絶対。あ、扇風機回ってる」


最近の女性は恥じらいがないのだろうか。胸元が幅広く開いたブラウスを着ている。おまけに、その胸元をパタパタと前後に揺らしているので、いい意味で見るに堪えない。顔を背けた私は、「あんなのじゃなくてもっと本物をいつも見ているだろう」と心の中で自分に問いかけるのだが、「人妻だから? 熟女だから?」なんて返しを期待していたみたいで、もう一人の自分はやっぱりそう答えてくれた。昨日のミナトの残像が浮かびそうになって、瞬時に頭を振った。


結果、胸見えるよ、なんて声がかけられる訳もなく、私が理性と戦っている間に講義は始まったのだった。


隣に居るだけで意識してしまうのは当然なので、寝てしまおうかとも思ったが、この暑さだと起きたときに汗だくになっている姿が想像できる。しょうがなく教授の話に集中していようかと思った私だった。


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