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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【余裕のない哲学者】
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人間はどうも高尚な人種らしい。ガタガタと音を鳴らすドアの際に耳を寄せているのだが、それ以上の怒声が反対側の耳から聞こえてくる。


「邪魔だよ」

「なんだよ」

「出れねーだろーが」

「ちっ」


今日も人間様はお忙しい様子です。この程度の掛け合いで終わるのは、そんなに問題のない日本では一般化した光景だろう。もっと取っ組み合いだとか、言い合いが続いたりだとか、関係のない人間の迷惑そうな顔が見られると、公共は彼らの土俵と化す。駅員が出てきて、電車が止まって、電車に乗車していた個々人の時間が彼らによって奪われる。駅員も乗客もとんだとばっちりだが、彼らにとってはどっちが悪いか決めることの方が大事なのでしょうがないのである。


考えたそばからまた日本特有の光景が見られる。見るからに謙遜感情が強そうな若妻がベビーカーを押して入って来たのだが、専用のスペースにはサラリーマンらしき人が三人立っていてどいてくれる様子もない。仕方なく私と対角線上のドア際に居座ることに決めた若妻だったが、どうも表情を見る限り、少なくともここに居たいと思えるような顔ではなかった。


確かに人が空いている時間ではない。十時近いので朝の満員電車までとはいかないが、それなりにスーツを着た男性がちらほら見られる。


私はその若妻の元へ近寄った。


「朝から大変ですね。赤ちゃんもこの空気を察してるみたいで」


苦悶の表情を浮かべていた彼女だったが、私が声をかけるとそれは驚きの表情へと変わった。


「あ、えっと、大丈夫です。次の駅で降りるので……」


「そうですか。またね」


 そう言って私はしゃがんだままベビーに手を振り、ちょうど駅に着いたようで開いたドアに続くように若妻とベビーは出て行った。その際に、ベビーがいい顔をしていたのは気づかないことにした。


また、ドア際の定位置に戻った。


珍しいものを見つけたように私に視線を向ける人が数人いたが、ほとんどの乗客は自分の手元に目を落としていた。


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