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「カスティーヨ」
表通りに面した脇道の奥のビルの二階には、こんなあいさつをしてくる人がいる。前は「よう、カスティーヨ」だったのだが、それじゃあ私の名前がカスティーヨみたいじゃないかと反発したところ、「じゃあカスティーヨだけにする」とボスは言った。「よう」か「カスティーヨ」か、どちらかを選べばいいというものでもないはずなのだが、いったんはそれで安着した。
「ボス、っていう呼び名もどうかと思いますけどね」
反抗した私がそう投げかけると、「やっぱ一度はボスと呼ばれてみてえ」と子ども染みた返答が返ってくる。
内装は、こういう類のビルにしてはシンプルで、どこかの法律事務所、もっと近しいもので言えばオフィスビルと見ても何ら変わりない。部屋の大半は白が基調だし、装飾もほぼないと言っていい。カーテンは暗幕と外側にありふれた陳腐なレース。特にこだわったところはないが、一つ言うなれば、応接室みたいだ。改まって言うほどでもないが、真ん中に茶色い机が置かれているから。
もう一つ言うなれば、カウンターがある。どちらかと言うとこちらの方が特徴的で、バーでよく見るあれだ。あれの小さい盤。ビルの一階にある受付みたいな。そこに足の高い椅子が一つだけ置いてある。今まさにそこの茶色いカウンターにボスが肘をついて前かがみに立っている。その正面に置かれている椅子に私は座っていた。