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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【エピローグ】
126/128


 伝わんなかったんだ。声に出さなかったから。俺はこいつの気持ちを十二分に知っていたから。声に出しても伝わらなかったかもしれない。でも声に出さなきゃ伝わらない。


 こいつがどんな言葉を私に求めていたのか、今でもわからないのだ。声に出さないから、出せないから、答え合わせもできない。おまけに世界は純愛とか綺麗なものばかりを求める。穢いものは全部狂ってるとか普通じゃないと揶揄される。そんな世界で自分本位に自分のやり方で人を愛すことなんてできるだろうか。自分は正常だ。大多数の正義がマイノリティの正義を蝕んで心に大きな荷物を抱え込ませる。


 ホラーが普通じゃないって? ストーカーは自意識過剰だって? デートDVは個人の尊厳を無視しているって? じゃあマイノリティは我慢して生きよう。正常に生きてみようと自身が変わろうとすればするほど、人を愛せなくなってしまう。


 相手をぐちゃぐちゃにしたくなるくらい人を愛したことはあるか? 相手を自分だけのものにしたいくらいの独占欲を持ったことはあるか? そういう狂気と言われるものこそが、本当は純愛なのではないかなんて最近は思ったりもする。


 美菜はきっと一人だったのだ。居場所を奪われて、友人との関係性の中からその居場所づくりを希求した。家庭とか、母親の温みとか、父親のおおらかさだとか、それと同等のものを求めた。


 この人にだけは裏切られたくない。この人だけは自分の思い通りに動いて欲しい。そういう想いはきっと類稀なものだ。


 美菜はきっと、みんなが無意識のうちに手に入れているはずの物を持っていなかった。幼少期に一番育まれるべきそれを、美菜は知らなかった。


 愛着も、愛情も。居場所も、ない。誰かから疎外された気分によって孤独を感じ続けた。


 絶対的な愛が、不足していた。


 同情はない。


 愛してくれれば誰でもよかった。心にぽっかりと開いた穴を、ゆっくりと塞いであたたかい愛液で満たしてくれる相手が欲しかった。二人だけの空間が欲しかった。二人だけの世界が欲しかった。なぜかって?


 だって、他に人がいたら自分を置いてそっちに行っちゃうかもしれないから。もうそんな悲痛な想いは味わいたくないじゃないか。


 それだけだったんだよ。きっとさ。


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