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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【エピローグ】
124/128

「これでお墓参りに来るの何回目?」


「ああ、三回ぐらい?」


 私は墓石の前に座って今の今まで手を合わせていた。膝立ち状態から腰を上げようとする。


「いい加減誰のお墓か教えてくれてもいいじゃない?」


 湊は彼女の墓の前に来るといつもそう言うのだ。私は口を噤んで誤魔化すので、結局「まあいいんだけど」と言って諦めてくれる。


「墓参りもさ、今の時代だけだと思うよ。この先はなくなっていきそうな気がする。人が死んでも墓参りなんて古風なこと誰もしねーよって言われる時代が、そのうち来そうな気がするんだよね」


「そうしたら忘れちゃいそうだね、その人のこと」


 湊は顎をしゃくって墓石を示した。私は一度その墓石を見てからまた彼女の顔に視線を戻す。


「ああ、俺もそう思う。生きた人のことを忘れてしまいそうな気がする。忘れるに十分なものが今の世界には揃ってるからね。仕事とか、上司とか、上司とか」


「それ嫌味じゃん」


 湊は私の冗談に、顔には出さないが心底笑っているようだった。私に呆れたというような顔にも見える。


 でも、確かに目を背けるには十分なくらいの娯楽が、この世の中には広がっているのだ。愛は人間様の創り出した娯楽に飲み込まれ、愛がなくても生きて行けるようになったのだ。


 誤魔化しているんだ。草食系男子というのもその一つだろう。ゲームが好きならゲームをする。音楽が好きなら聞けばいいし弾けばいいし作ればいい。そういうことなのだ。


 誰かが死んで、残された人間からそいつの生きていた記憶が無くなればいい。


「このお墓はさ、この子の両親と俺たちぐらいしか知らないんだ。とどのつまり、今の墓参りという風習で言えば、俺たちだけが彼女のことを愛しているんだ」


「でも、他にもいるかもよ?」


「ああいるかもしれない。でもさ、そういう人たちはいいんだよ。墓参りなんかしなくても自分で想いを浄化できちゃうんだから。問題なのは、残された人間だよ。死んだ人は何もしゃべってくれない。だから、答え合わせもできない。なんで死んだんだとか、俺のことどう思ってたのとか、想像することしかできない。死んだ奴は逃げたくて死んだのかもしれないけど、残された人間は向き合っていかなきゃならないし」


「まあ確かにそうかもね。しゃべれないのをいいことに尊厳奪ったりするものね。ほら、抵抗できない人とかいるじゃない。植物状態の人とかドラマで見るけど、その人が話せないのをいいことに、勝手に私たちがその人のためだとか言って……ほら、いろいろするじゃん! 移植とか」


「まあ、言ってることはわかるよ」と私は自分の高い鼻を掻いた。


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