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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【エピローグ】
123/128

 片手がない人間を自分とは違うと意識した時点で、この人は障害だと認識するのはどうも気に食わない。そんな自分の思考が気にくわないでいた。いくら同じ人間として扱おうとしても、その不揃いな感情はいつまで経っても一致しなかった。


 偏見、と一口に言えども、当事者が偏見だと思ってしまった時点で、そ奴の行動は偏見と化してしまう訳で。セクハラや痴漢も同じで、人それぞれ感じ方の程度が違う。こんな広い世界である。中年の男に公共施設でひっそりと尻を触られることに快感を覚える性癖の持ち主もいれば、痴漢願望を持ったセックスレスの人妻も一人くらいはいるはずだ。もしいなかったとしても、仮定はできる。


 だから、そういう意味で軽々しく偏見と口にする輩が私は気に食わなかった。お前自身が偏見を語っているのに自身で偏見しているかもしれないという可能性を見出せていない。私は障害者の人を労わってやれている。考えている。だから偏見じゃない。人間の人権そのものを否定してまで労わろうとしてるのに? そう疑おうとしない人間が少なからず私の周りにはいた。


 だが、気に食わないとはいえその人が不正解だとは言い難い。気遣って欲しいと思う人なんてごまんといるはずだし、こうやって私が持論を並べても、私自身が私自身の理論を信じ切れていない。そういう面では少なからず彼らの方が正しい道を行っているのだと思う。


 障害者を友人と接するときのようにあたりまえに接することができたらと、いつも考えていた私だったが、それはとても難しいことであった。人格そのものを変える必要があった。今の人格を否定して崩すたゆまぬ努力が必要だった。


 悩んでいた私に友人が、「みんな友人と思って接してたら、右耳が聞こえない人に右側から話しかけちゃうじゃん」と言った。でも、相手は左側から話して欲しいとは思ってないかもしれないじゃん?


 でも、そんな一言で私の長年の悩みと費やした時間は水の泡となった気がした。


 人を見損なうのなんていとも容易い作業だ。その人の背景を知らずにこの人はそう言う人なのだと卑下するのなんて、言ってしまえば簡単すぎるのだ。アルツハイマー病の人があれだけ一緒に思い出を作った私のことを覚えていない。PTSDの人が俺のような強面の男に怯えている。自閉症の人が強いこだわりを持って当たり前の概念を全力で否定してくる。


 彼らは何ら私たちと変わらないのだ。


 自分にとって何が嫌で何を好んでいてそんなものにだけ目を向ける。私は嫌だから彼のことを否定する。私が嫌だから距離を置こう。どちらも正解である。


 でも、自分がかつて愛した人間のその背景を知ったときに、「ああ、あのときの選択は間違えていたんだ。もっとあなたのことを知っていれば、こんなはずにはならなかったかもしれない」そんな感情が後を追ってやって来るのだ。


 ボスの声がそう訴えているのだ。知らない、ということの罪を。


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