*
新幹線に乗ると、いくらか落ち着いてきた。乗ったのは二十一時四十五分発。到着予定は二十三時三十一分。最寄り駅から家までの約十キロは、おそらく走ることになる。タクシーがいればいいのだが。
漁船の船長にはしっかりとお礼をした。「また来ます!」と声高々に周りの目を顧みずに宣言したくらいだ。
イヤホンから流れる心地の良い音楽によって、私はまどろみの中へと誘われた。目が冷めた丁度そのときが、私の降りるべき駅だった。
急いで私は荷物を抱えて下車した。静かな社内の中で、突如として私の足音が響いたのだ。皆私のことを訝しげな眼で見ていたに違いないだろう。
私が歩く左側を、発車した新幹線が徐々に勢いをつけて通り過ぎて行った。
特に不自由もなく改札を出ることができた。私は歩いている。島を出たときのような焦りが消えていたことに気づく。
駅前まで出ると、目の前にタクシーの姿があった。煙草をふかしながらすぐ横の待合室のベンチに座る中年の男性が見えた。まだ大丈夫ということだろう。
「すいません。青沼駅まで」
私がそう伝えると、男性は煙草の火を自分の足ですりつぶし、運転席へと乗った。私は後部座席へと座る。