*
同僚たちに見せると、裏切られた、と思ったものも数名いたそうだが、多くの人は千紘の与えた笑顔と想いの方が印象的だったようだ。泣いて悲しむ人が多かったという。
そして、両親を呼ぶに至った次第だった。両親は千紘がこちらに就職してから一度も会っていなかった。メールは続いていたみたいだ。電話と会うことはいろんな理由で断られていたという。両親も、「まあ、メールで十分か」と思った。
当然、両親も千紘の整形については知らない。その遺書を読んで驚いたという。
そして肝心なのが、千紘が最初に読んだ武田奏太の遺書。それで私がここにいるのだ。
「俺の遺書にはなんて書いてあったんですか?」
「特に気になる文章はありませんでした。確かさっきそこの棚に……」
そう言って八巻さんが棚から便箋を取り出し、私に手渡した。読んでみると、確かに目立った文章はなかった。俺はもう死にますという意が書かれていたに過ぎなかった。
「え、これって誰から送られてきたんですか?」
「それがわからないんですよ。差出人が書かれていなくて……。確かによく見ると女性の字にも見えますし、武田君が犯人と決めつけるのは僕もちょっと……」
八巻さんは頭を掻きむしっていた。おそらく切羽詰まっているのだろう。私自身も、不穏な想像に苛まれていた。
「私もそこはあんまり気にしていません。いたずらかもしれませんし、彼を責める気はないんです。ただ、私が父親として聞きたいのは、なぜ武田君が死ぬと千紘が死ななくてはならないのかってことなんです。ただの高校時代のクラスメイトでしょう? それとも何か、千紘と喧嘩別れでもしたんですか? 恋人だったんですか?」
「いえ、恋人ではないです。女子の友人としてはよく話していた方だと思います」
「じゃあなんで……」
「喧嘩はしたことあります。彼女が俺のことが好きだったかはどうかわかりませんが、突き放すような言い方をしてしまったことがあります」
「いつ?」
「それは……高三の夏休みの補習のときです」
「じゃあやっぱりお前が!!」
「いえ、それはないですお母さん! というか千紘は多分自殺なんて……」
そこで私のスマートフォンが鳴ったのだ。母親の方は喧噪が狂っていたのだが、父親の方が「どうぞ」と電話に出ることを許してくれた。私は廊下に出た。襖の奥から母親の嘆きが聞こえた。たまらず私はサンダルをつっかけて外に出た。