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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【隠したくて隠したんじゃない】
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 八巻さんが異変を感じたのは、私たちが東京に帰った日のことだった。我々が帰った後、「少しお話が」と千紘に言われ話したそうだ。辞職についてだった。


 もう少ししたら辞めるかもしれません。そのときはすみません。そう言われたという。当然八巻さんは理由を尋ねる。なぜだ、何か不自由でも? それを聞いた千紘は、「とんでもない。こっちの事情です。申し訳ないです。まだやめると決まったわけではないですし」


 その後もしつこく八巻さんは問い質したそうだ。あれだけ笑顔を振りまいていた人間が、突如辞職したいと言うのなら無理もない。千紘は、「この島に来たのは、本当は逃げるためだったのかもしれません。約束を忘れられていたと知ったときの保険だったのかもしれない」


 そう言ったという。


 八巻さんはその日から悩み始めたという。モヤモヤしながら出勤に就いて、二日目か三日目だったという。職場に千紘が来なくなったのだ。


 同僚や仲の良かった島民に話を聞きまわった。そして一つの気がかりが見つかる。


「ああ、そう言えばこの間珍しく手紙が届きましてね。それが飛鳥さん宛だったんですよ。ほらこの間大学生がこの島来たじゃないですか。飛鳥って美人だからナンパされたのかもってなって、手紙を渡すときにみんな盛り上がってましたね」


 同僚の男性からそう言われたときは、まさか手紙でいなくなるはずは、と思ったそうだ。確かに大学生から手紙が来たとしても、就職してから無遅刻無欠勤の優良な職員がいきなり休むとなれば、手紙なんか程度では休まないと思った。結局風邪でもひいたのかもしれないと思い、彼女の家に八巻さんは出向いた。インターホンを鳴らしても返事がないので、心配になって合い鍵で中へと入った。そして手紙を見つけるのだ。


 最初はその手紙が大学生からのものだろうと思ったらしい。しかし宛名は書かれていなかった。


 悪いとは思ったが、心配だったこともあり八巻さんは手紙を開けた。三つ折りになった便箋の裏に、島の皆へ、と書かれていたそうだ。


 読んだ手紙は、手紙ではなかった。内容が遺書同然であったのだ。


『私はもう亡き人に会いに行きます。あの人がいたから私は変われた。それだけは確かなので、もういなくても、私は自分の想いを包み隠さず自分の口で伝えに行きます。気づいてもらおうと待っているだけではもう駄目なんです』


 その文章が一番遺書めいていた。


 島民、職場の同僚たちへの申し訳ないという気持ちが記されていたという。偽名を使ったこと、実は整形をしていること、この島と離れるのは寂しい、そんなことが赤裸々に記されていた。


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