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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【隠したくて隠したんじゃない】
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 高三の夏休みだそうだ。学校の補習へ行って帰ってきた千紘は両親にこう言ったそうだ。


「私、就職したい」


 受験先も決めて後は勉強して来春を待つのみとしていた両親にとっては、思いもよらない発言だっただろう。理由を尋ねると、「離島に興味があって。そういうところで働きたい」と言ったそうだ。今まで離島なんて言葉を聞いた覚えもない。誰かにそそのかされたのではないか。母親はそう思った。だが父親は違った。


「やりたいことができたんだろ? いいことじゃないか。遊ぶわけじゃないんだ。働くならこれ以上の親孝行はないだろう」


 父親が千紘の想いを汲み取り、母親を説得した。そして、もう夏とはいえ離島に就職する人などほぼいないに等しい。常時募集されていた島の役所に就職が決まった。


 島の人にとってみれば思いもよらない幸運だったみたいだ。寝床も提供。金がかかるのは光熱費もろもろと食費。家賃なし。


 晴れて就職し離島生活を始める。この辺りで父親の話に口を挟んだのが、八巻さんだった。


「就職する際の面接は、僕と一対一でした。だから驚いたんです。面接時と初出勤日に来た人物は全くの別人に見えたものですから」


 八巻さんは千紘を責める気は全くなく、事情を聞いたそうだ。「面接のときに来たのは別の人か?」と。替え玉だったのかと。千紘から返って来たのは「整形しまして」という恥ずかしそうな声だった。


 声もまた整形したようだった。そのせいもあって、すぐには信じられなかったという。だが、診断書のような紙を見せられ、納得せざるを得なかったそうだ。


 八巻さんは器の大きい人間だった。そんな普通じゃ考えられない変わった人間でも、この島のためになるのならと口を噤んだ。実際千紘は人柄もよく、すぐに島民と仲良くなり、仕事も怠らない。頼めば笑って対応してくれたという。


 次第にみんなから慕われるようにもなったそうだ。年齢が若いこともあり、島の子どもたちともよく遊んだ。


「ただ、今の今まで黙っていたことが一つありまして。彼女の名前なんですけど……」


 千紘は頑なに、千紘、と言う本名を隠したがったと言う。そう言われたときも、八巻さんは寛容で、あだ名みたいなものだろうと思っていたみたいだった。「絶対に私の本名をばらさないでください」そう言われ、そのぐらい大丈夫だろうと、八巻さんは彼女の本名を他言無用だったという。


「彼女の名前は三好飛鳥。今日から一緒に勤務していただきます」


 八巻さんはそう紹介した。


 それからというもの、職場の雰囲気は明るくなったという。千紘の影響はすごかったのだ。誰にでも快く接し、常に笑顔。アイドルのような存在。八巻さんもその影響力に感服していた。


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