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真赤なアスタラビスタ  作者: 面映唯
【醜い子にも旅をさせて】
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「人間はね、選り好みするのよ。彼よりは彼の方がいいみたいな感じで。おまけに好き嫌いも違う。一人の男性を好きだっていう人もいれば、嫌いだっていう人もいっぱいいる。探す時間がないだけで、世界中のどこかには自分と気が合う人がいるのよ。そういう漫画読んだことあるでしょ? 政府がマッチングして結婚相手決めてくれるってやつ」


「まあ聞いたことは」


「私たちみたいに奥手な人とか、恋人をそこまでして手に入れたいものでもないとかって思ってる人には、そういう制度の方が好ましいのかもね。法律のせいで渋々結婚してみたら、あら楽しいじゃない、わあ幸せ、みたいな。だからさ、好き嫌い、するしないなんてどっちでもいいのよ。好きだからする、好きだからしない、嫌いだからする、嫌いだからしない、全部正解! あら素敵!」





 捨て台詞としては完璧だった。余韻と意味深さを感じさせ、すっきりとした回答。結局人それぞれなのだからその人の気持ちはわからない、ということだと私は受け取った。


「美菜のことが知りたかったのに」、と呟いてみる。美菜のことが知りたかったのに、美菜どころか誰の気持ちもわからなくなってしまった。


 誰の気持ちもわからなくなったからだろう。


 懐かしい感触だった。無性に何かを信じて見たくなったのだ。裏切られたときのことなど考えず、代償など考えず、ただ美菜を信じてみたい。美菜のサインを信じてみたい。そう思った。


 あの頃の私は愛に飢えていたのだろう。誰彼構わず、性行為の同意という確実な愛情表現を差し出した女性と行為に及ぶことで、心の隙間を埋めていた。それを繰り返すことで私は酔ったのだ。手慣れてしまったのだ。愛が簡単に手に入るものだと勘違いしたのだ。


 人間らしからぬ生き方に飽きてしまったのだ。本物を手に入れたくなった。




 夕日が真っ赤に染まり、私は人影の少ない公園の横を歩いていた。アスファルトに今も揺れ動く陽炎。明日には死んでいる蜉蝣。純度の高い炎は傍から見ればとても儚いものだろう。


 でも……。物事をもっと単純に考えてみよう。これが好きだ、と言われたらその人はこれが好きなのだと思いたい。


 そういうところからまた始めてみようと思った。


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