6.朝ごはん
「おじさんは、また出張?」
「そうそう。お父さんが居れば寝坊しなくて済むのにね」
「子供じゃないんだから自分で起きなよ! いや……おじさんがいない日だから寝坊出来るのか……。相変わらず仕事、忙しそうだね」
「『仕事は出来る人間の元へ集まってくる』ってお父さんいつも言ってる」
「か、カッコイイ……」
「ところで修斗、朝ごはんは食べたの?」
「食べてないよ! 朝ごはん食べない派なんだよねー!」
「こら。 朝ごはん食べないと元気でないよ? 軽くなんか作るから、ちょっと待ってて」
そう言い残し、「えー、別にいいよー」とブー垂れている修斗を残し、カウンターキッチンへ向かう。
白とピンクを基調とした清潔感のあるシステムキッチンだ。
「修斗、朝は洋食と和食どっちが好み?」
「普段食べないからあれだけど、どちらかと言うとパン派だから、洋食派かなー?」
「何でも『派』をつけるんじゃありません」
「やっぱ、お母さんみたいだねー」
修斗は呆れた様にケラケラと笑っている。
冷蔵庫を開け、仁王立の格好で、中身を確認する。さて、何を作ろうかな。
まずは野菜を取り出し、サッと洗って適当にボールへ盛り付け、最後に粉チーズとクルトンを散らし、ドレッシングをふる。
イングリッシュマフィンに軽くバターを塗ってからオーブントースターに入れ、それと同時進行でフライパンでベーコンを軽く炙る。
ジューっという耳心地の良い音と共に、胃袋を刺激する芳ばしい香りが部屋中に充満していく。ぐう……と私のお腹が鳴ったのは内緒だ。
焼きあがったイングリッシュマフィンにレタスとトマトとベーコンを乗る。更に、ベーコンから出た油を利用して作った目玉焼きとケチャップを重ねて、最後にもう一枚のマフィンで蓋をして完成。
スープは……インスタントのコーンスープでいっか。
「お待たせ」
「お、おぉー! 軽く作ったってレベルを超えている……いっただきまーす!」
「はいどうぞ」
幸せそうに料理を頬張る修斗を眺めながら、調理に使用した器具の洗い物を済ませる。
「う、うまーい! 天才か?!」
「いやいや、誰が作ってもおんなじ味になるからね?」
と、答えたものの、あれだけ美味しそうに食べてもらえたら作ったこっちも悪い気はしない。
あらかた片付けを済ませ、珈琲を淹れて修斗の向かいの席に着く。
「なんか和むねえ」
「そうだね! ご飯も美味しかったし、眠くなってきちゃったよ」
「もうさ、このまま休んじゃおっか?」
「そーだねー……ってダメダメ!」
「もうひと押し足りなかったか」
「危なかった。危うく悪の道に引きずり込まれるところだったよー」
「大袈裟だなあ。修斗は真面目だね」
「べ、別に真面目じゃないってば!」
「ツンデレか」
「別にアンタの為に朝ごはん食べた訳じゃ無いんだからね?! 栄養摂取の為なんだからね!」
「ツンデレ……なの? それ」
「分かんない!」
「でも残念だったね。そろそろ珈琲に入れておいた薬が効いてきたはずだから」
「えっ?! そ、それでさっきから強烈な眠気が……?」
「いや、入れたの青酸カリなんだけど……」
「ガチで仕留めにきてる?!
って、バカやってるのも楽しいけどさ、高橋さんとも約束してるんだし、そろそろほんとに学校行こうよ!」
「あー、うん。そだね。それじゃあ行きますか」
家 から学校までは普通に歩けば15分程度で着いてしまう距離だ。
朝、とは言い難い時間のせいか、やや強めの日差しが体温を上昇させる。
六月も中旬だというのに、今年はあまり雨が降らない。かと思うと、一度降り始めたら夕立ちの様などしゃ降りになる事が多い。
雨は別に嫌いでは無かったけど、突然降り出してビショビショになるのは勘弁だ。
私の隣を歩く修斗は、何もないのにいつも楽しそうに見える。まるで子供みたいだ。
たぶん雨が降っていても傘をさし、水たまりを避けながら楽しそうに登校するのだろうな、と想像すると、堪えきれず、笑いが溢れる。
「美柑、何笑ってるの?」
「ん、別に。気にしないで」
「なにそれ、めっちゃ気になるんですけど!?」
「いやね、遅刻してるの見つかったらどうやって修斗を置き去りにしようか考えてたの」
「ひ、ひどい!」
「うそうそ。怒られる時は一緒に怒られてあげるよ」
「そもそも美柑の所為で遅刻したんだけど?!」
「そうだっけ?」
漫画みたいなオーバーリアクションでぷんぷん怒っている修斗を見ていると、再びくすくすと、笑いが溢れ出たのは、いうまでもない。




