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みかんのきもち  作者: 名前はまだない
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4.その手に掴むものは何?

 初めての高橋(たかはし)さんとのお昼ご飯は、特別なにか印象に残る事は無かった。

 居心地(いごこち)が悪いとまでは言わないけど、それほど親しくない相手との食事は若干(じゃっかん)の気まずさを(ともな)う。

 修斗(しゅうと)がペラペラと喋ってくれるから助かるんだけど、仮に高橋(たかはし)さんと二人きりで……と考えると、正直ちょっとキツイかも。


 そんな事を考えながら、自室(じしつ)のベッドに横たわる。

 ベットに寝転んだ瞬間が一番幸せだ。電気を消して目を(つぶ)れば、社会の喧騒(けんそう)から切り離された様な感覚に(おちい)る。

 薄目を開けて、真っ暗な天井に向かって手を伸ばす。何かがそこにある訳では無いし、格好をつけたい訳でもない。

 いつからか分からないけど、眠りにつく前にそうする事が日課になっていたりする。

 特に深い意味はない。と、思う。


「今日も一日平和だった」


 そう(つぶや)いて、薄く開けた目を再び閉じる。


 それからどれくらい時間が経っただろう。

 何度か寝返りをうち、むくっと身体を起こす。


「寝れない」


 ぽりぽりと頭をかきながら壁にもたれ掛かる。

 そのまま何もせず、ぽけーっと時を過ごす。


 気まぐれ。きっかけは何だったの? と、聞かれれば、眠れなかったからと答える程度(ていど)の。

 充電中のスマホをケーブルから抜き、メッセージアプリを起動する。

 返信するつもりは無かったんだけど、高橋(たかはし)さんから社交辞令(しゃこうじれい)じみたメッセージが届いたのは忘れていない。


美柑(みかん)高橋(たかはし)さん、まだ起きてるー? 気にしなくていいよ。また気が向いたらうちのクラスにおいでよ]


 既読(きどく)は、つかないか。流石(さすが)にもう寝たかな。そう思ってスマホを元の位置に戻し掛けた時、メッセージの着信を知らせる音がなる。


高橋(たかはし)[まだ起きています。本当ですか? 有難う御座います。でも、お邪魔にならないでしょうか?]


美柑(みかん)修斗(しゅうと)がそんなの気にすると思う?笑 ところでこんな時間まで何してたの?]


高橋(たかはし)[それは確かに無さそうですね。今は読書を軽くしています]


 マジか。こんな時間まで読書か。まあ、勉強の一貫なんだろうな。進学組(しんがくぐみ)は大変だな……私にはとても真似(まね)出来ないよ。

 そして読書に軽くとか、重くとかがある事をこの時始めて知った。

 勉強かあ。二年生とはいえ、やっぱりこのくらいの時期になると受験や進路を意識しないことは無い。

 勉強をやらなきゃいけないと強く思えば思うほど、身体が机から遠ざかってしまうこの現象に誰か名前を付けてくれませんかね?


美柑(みかん)[そうなんだ! それは邪魔(じゃま)しちゃったね。頑張ってね]


高橋(たかはし)[いえ。そろそろ休憩しようと思っていたところなので。日比谷(ひびや)さんは何かしているのですか?]


 おっ。そうきたか。何もしていなかったと言えば、何故返信がこんなに遅くなったのかと思うだろうし、かと言って今は夜の11時過ぎ。

 こんな時間まで用事(ようじ)……は高校生には少し無理があるかな。


美柑(みかん)[お風呂で寝落ち(ねお)してたー笑]


 うん。無難(ぶなん)だ。問題ない。


高橋(たかはし)[そうなんですね。湯冷め(ゆざ)して、風邪をひかないように気を付けてくださいね]


 ……ごめんなさい。ちょっぴり罪悪感(ざいあくかん)


美柑(みかん)[うん。ありがとー。それじゃあ、本当に邪魔(じゃま)をしても悪いし、そろそろ私は寝るね]


高橋(たかはし)[私も今日は寝ることにします。その前に一つだけいいですか?]


美柑(みかん)[なーに?]


高橋(たかはし)[本当に嫌でなければ、なんですけど、明日もお昼ご飯、ご一緒(いっしょ)させて頂けませんか?]


 ははは。本当にお堅い(かた)なあ。メタルスライムか! と、ツッコミを入れても良いかな? いや、メタルスライムに物理攻撃(ぶつりこうげき)は効果的ではないか。


美柑(みかん)[それは全然(ぜんぜん)いいよ! ただし、もっと(くだ)けた口調(くちょう)で話すこと!笑]


高橋(たかはし)[……善処(ぜんしょ)します。それではまた明日。お休みなさい]


 いやいや、全く善処(ぜんしょ)されていないよ。(むし)ろ余計に(かた)くなったよ! (かたく)なな子だなあ。

 まあ、いいか。人はそう簡単に変われるものでもないし、昨日今日(きのうきょう)出会ったばかりの人に、何か言われて変わるくらいの人間性なら、最初(はな)から無いに(ひと)しい。

 そんな物は……いらない。


 さてと、そろそろ本当に寝ないと明日、寝坊してしまいそうだ。

 再びベットに体を(よこ)たえて、真っ暗な天井に向かって右手を伸ばす。


「あ……眠れそうな気がする」


 そう(つぶ)やいて、目をそっと(つぶ)る。

 何故(なぜ)か理由は分からないけど、いつもより心地良(ここちよ)く、深い眠りにつけた気がした。

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