繰り返す日常と、増えていく悩み事
急に目が覚めたのでスマホで時間を確認する。色々と考え事をしていたらいつのまにか寝てしまっていたみたいだ。
一瞬寝坊したかと焦ったけど、まだ朝の5時前だった。二度寝ができるのは幸せだ。
それにしてもなんだか懐かしい夢を見た気がする。
小さい頃の夢……お母さんとお父さんと、それから修斗とあと……
思い出せない。もう一人、誰か出てきた様な気がする。
ふわふわした気分でぼーっと考えているけど、夢の内容っていつもとりとめもない感じで思い出せないことが多い。それでも、なんとなくだけど、少しだけ幸せな気分にさせてくれる様な、そんな夢だった気がする。
昔のことを考えながら寝たにも関わらず、少しだけど幸せな気分になれたのはラッキーだ。今日はついているかもしれない。
「でも……眠たい……」
もうひと眠り……と思ったけど、時間を確認した時にメッセージが届いていた事を思い出し、思いとどまる。
眠たい目を擦りながら画面を確認する。昨日の夜に届いていたみたいだけど、気づかずに寝てしまっていた。
メッセージを送ってきていたのは、高橋さんだった。内容は、部活に入ってくれてありがとうとか、なんかそんな感じだった気がするけど、眠たくてそれどころではなかった。
結局、睡魔に負けて、既読だけつけて返信することは出来なかった。
次に目を覚ました時、時計の針は午前8時30分を指していた。
なんだろうこのデジャブ感。窓を開ければ、大声を張り上げながら、手を振る少年がそこに居る気がしてならなかった。
「まさかね……」
あの日……いや、正解に言うと昨日と同じように背伸びと欠伸をし、窓のカーテンを恐る恐る開ける。
「ま、眩しいぃ……これがスペシウム光線かあ……」
敢えて昨日と同じ台詞を口にしてみる。そうしたら、やっぱり修斗がそこにはいて、私に向かって手を振っていたんだ。
「おぉ……これがタイムリープってやつか……これで私もラノベ主人公?」
「美柑ー! 何わけわかんない事言ってんの! 二日連続で遅刻する気ー?!」
「あははー……ですよねー」
私はタイムリープしていたわけでは無く、単純に二日連続でお寝坊をしただけだった。
「修斗ー、ふと思ったんだけどさー、このデジタル時代に、時計の針が指すって表現、風情があっていいよねー」
片方の肘を窓枠にかけ、もう片方の手で寝癖の付いた髪を軽く抑えながら、階下にいる修斗に語りかける。
「どうでもいいよそんな事! それより早く準備してー!!」
案の定修斗は怒っていた。怒ってはいるんだけど、こんなダメダメな私を見捨てないでいてくれる修斗やっぱりいい奴なんだと、そう思うわけで。
「ここは私に任せて、先に行っててー」
「ダメ! そしたら美柑学校来ないでしょ!」
「やだなー。ちゃんと行くよー」
「絶対うそだ!」
「行けたら行くってー」
「それ一番信用できないやつ!!」
「あはは。信用されてないねー私」
「逆の意味で信用しまくりだよ! 放っておいたら学校サボるっていう絶対の信用!」
いやいや、そこまで私は怠け者じゃあないと思うんだけどねぇ……とは言え、私を引っ張ってでも学校に連れて行こうとしてくれる修斗の温かさには、素直に感謝している。
こういう友人って、作ろうと思ってもなかなか出来るものでは無いと思うし。
「そう思うなら、早く準備してー! お願いだから〜!」
遠目だから分からないけど、半分涙目になってそうな声を出している。流石に二日連続で修斗を巻き込むわけにもいかないので、一瞬で支度を済ませ、玄関から飛び出す。
学校までの距離はだらだら歩けば約15分。
現在の時刻は午前8時40分……走ればいける!
「はぁはぁ……み、美柑、相変わらず足速いね……」
「まあ、それだけが取り柄みたいなところあるからね。間に合って良かったよ。はい、お水」
「あ、ありがとう……はぁはぁ」
滑り込みセーフとは正にこの事と言えるほどに、ギリギリで教室に駆け込んだ私たちは、他の生徒から若干の注目を浴びながら、自分の席に着いた。
午前の授業を受けながら、ふと七尾の方へ目をやる。
今度は、千愛の方へと視線を滑らせる。
昨日の七尾の話……追求するつもりは無いけれど、気にならないと言ったら嘘になる。
七尾は、千愛の事が好きなんだろうか……そしてその好きはライクではなく、恐らくラブ。ラブイズオーバー。
「うーん……」
「美柑、どうしたの?」
知らず知らずのうちに眉間にシワを寄せて七尾と千愛を交互に見ている私に、ヒソヒソと小声で修斗が話しかけてきた。
「いや……好きって……なんなんだろうなって、ちょっと考えてた」
「えっ?! ど、どうしたの急に……」
「まあ、少し思うところがあってね」
「まじ? 好きな人でも出来たの?」
「ん? ああ、違う違う。私じゃなくて、友達の話だよ」
「なんだー。びっくりしたじゃん」
「あ、でも友達から聞いた友達の話だから、友達の友達の話って事になってるんだけどね。あくまで表向きは」
「え? ちょ、ごめん。よく分からなかったからもう一回いい?」
「別に大した事じゃ無いから、気にしないで」
「な、流された……あ、そう言えば……」
そう言いながら修斗は、ごそごそと自分の鞄を漁って一冊の本を取り出す。
「はい、これ。次は美柑の番ね」
「ん? これって……え? なに、修斗もうこの本全部読んだの?!」
「うん! いやー、読み出したら止まらなくってさ! お陰で夜更かししちゃったよ!」
「まじか……凄いね」
これは意外な展開だった。部活に入ったものの、スポーツをやる訳でもないし、人前で演奏や演技をする訳でもない。そう思ってのんびり構えていたんだけど、修斗がたった一日で読み終えてしまったのだから、私が何日も止める訳にはいかない。
恐らく高橋さんや神高先輩は、これくらいの小説なら一瞬で読み終わってしまうのだろうし……
というか、なんなら既に読破済みの可能性の方が高い。当時、結構話題になった小説だから、尚更だ。
「うーん……」
「あれ? まだ友達の恋について悩んでるの?』
「いや、これは別の悩みかな」
「悩み多き年頃なんだね」
「まあ、華のJ Kだからねー」
そう言えば、朝ごはんを食べていないから、お腹も空いたかも……なんて事を考えていたら、もう一つ悩み事が増えてしまった。
「しまった……高橋さんに、メッセージ返信してなかった……」




