局所麻酔3:作用機序1
局所麻酔薬はどのようにして末梢神経の痛みをブロックするのか?
それにはまず末梢神経の痛みのメカニズムを説明しなければならない。
痛みを感じて手を引っ込めるという場合を考えてみよう。
痛みの刺激->末梢神経->中枢神経->脳髄命令->手を引っ込める、が順路だ。
だが、どう考えても私たちは瞬間的に手を引っ込めている。
コレには様々な学説がある。
実際には脳に行く「痛い!」という連絡と、瞬間的退避動作は別物だという説だ。
緊急事態に、脳の判断と命令を待っていては遅い。
脳は高度な判断をするゆえに、考え込むクセがあるからだ。
だが現場判断で手を引っ込めたのが判ったら、脳が混乱してしまう。
そこで手を引っ込めた後で、脳に「痛い!」と連絡する。
脳は自分が判断して手を引っ込めたと錯覚して安心するという説だ。
身体の構造と機能、能力には驚くばかりだ。
学説は色々あるが、ここではイオン説にしたがって「痛み」を説明したい。
神経線維は脂質の二重膜で覆われている。
二重膜を疎水性分子は自由に透過できる。
しかし、イオンや電荷を持つ分子は透過できないようになっている。
その表面にはたんぱく質でできた弁の付いた管のようなものが頭を出している(膜貫通たんぱく質)。
それぞれ
①「Na+,K+ポンプ」
②「K+チャンネル」
③「Na+チャンネル」
の3種類がある。
■は「K+」●は「Na+」です。
「ポンプ」は動力のある機械。
「チャンネル」は弁のある管と考えれば良い。
「チャンネル」は濃度差でそれぞれ固有のイオンを通す管だ。
受動的動作で弁を開閉している。
静止膜電位時(-70mV)。
「K+チャンネル」は開いている。
「Na+チャンネル」は閉じている。
ポンプは
3つの「Na+」を細胞外に排出する。
2つの「K+」を取り入れている。
能動的動作でイオンを出し入れしている。
神経線維膜より上が外側で、下が内側として説明していく。
上図の様に外側に「Na+」が多く、内側に「K+」が多い状態だ。
普通に痛みのない場合は、この定常状態を保っている。
神経線維の膜には膜電位があり、静止膜電位は-70mV付近だ。
同じ電位で静かに推移している。
痛みの刺激が入ってくる。
閉じていた「Na+チャンネル」が開く。
その管を通って、Na+が膜の内側に流入してくる。
内側の電位が上がり始め、+40mVのピークに達するまで流入し続ける。
+40mVのピークに達する。
開いていた「Na+チャンネル」が閉まる。
「K+チャンネル」から「K+」が外に流れ出る。
「K+チャンネル」は濃度依存性の漏洩チャネルが多く存在する。
そのため、急速に初期状態へと回復する。
濃度の低いほうへ「K+」がどんどん移動してゆく。
ポンプは三つの「Na+」を細胞外に排出する際、二つの「K+」を取り入れる。
こうして、最初の定常状態(静止膜電位時:-70mV)に戻った。
痛みの刺激が収まらない場合はこのサイクルが繰り返される。
これが連続して、痛みの信号となって神経を伝達する。
これが「痛い!」という感覚だ。
次回は作用機序2です。