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少年と悪魔の天使狩り  作者: ぐーてん
第2章 悪魔崇拝者と天使信仰者
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魔獣の王

 街の中心近くにある大聖堂と呼ばれる教会よりも一回り大きな建物。

 2つの女神像が入り口で向かい合いながら人々を見守っている。

 中ではこれまで集会でも行われていたのか、大勢の天使信仰者と思われる白いローブを纏った老若男女がぞろぞろと中から出て来る姿が見える。



 とめどなく流れる人混みの中、唐突に足を止めたのは1組の男女。

 何かを見つめるように遠くに視線を映す2人。

 その先に見えたある光景に、彼らは後日、不吉なことがあった日としてこの時のことをこう語っている。


 曰く、呪われた地に黒い雨が降り注いでいたと。









 天空で交じり合った2本の黒槍。

 解け合い爆ぜた黒い塊は、昼の空を嘲笑うようにして、夜の雨を地上へと撒き散らした。



 1000を超える黒い矢は眼下に広がる白き存在に向けてひたすらに振り続ける。

 その場にいれば跡形も無く消えてしまうと思わせるほど、圧倒的に。

 そして徹底的に。

 昇る者を拒むようにして黒い雨は降り続けた。






「あははははは!!!!最高だ!!最っ高っだ!!!!!」


 口元を吊り上げ、瞳を見開き爛々と輝くのは2つの紅玉。

 おぞましい程に歪んだ口元はとても少女のものとは思えない。

 悪魔以上に悪魔な少女。

 彼女は今、自分とは対なる存在が地に這いつくばる姿を見てこれ以上なく興奮していた。


「いつ見てもいいものだな。貴様ら詐欺天使が地に落ちる姿というものは」


 黒い矢によって床に磔にされた天使たち。

 狙いすましたかのように黒い矢は天使の純白の翼だけを貫き、子供たちを避けながらうめく天使を地に打ち付けていた。


「ふむ、我ながら芸術性を感じる見事なまでの光景だ」


 ルシエルは両手の親指と人差し指で四角い窓を作ると片目を瞑り、その先で立ち上がることのできない天使を収めて、まるで1つの絵画のようにその光景を堪能していた。


「お、閃いたぞ。作品名は地に堕ちた天使。こんな感じでどうだ?」


 1人、確認するように呟くルシエル。


「いや、それだとシンプルすぎるな」


 しかし納得いかなかったのか、小首をかしげるとコツコと近くに落ちた天使の元へと歩み寄った。

 そしておもむろに。


 ブチブチブチッッ!!!


 天使の頭を鷲掴みにして無理やり立ち上がらせた。

 翼はルシエルの矢によって地に固定されているため、結果、天使は翼を根元から引きちぎられる形となってしまった。


「うああぁぁあああ!!!」


 部屋に響き渡る悲痛な天使の叫び声。

 ルシエルは潤いの孕んだ口元を半月状に歪めながら、掴んだ天使を再び床へと叩きつけた。

 ルシエルはそのまま天使の後頭部に片足を乗せるとグッと力を込めて地に押し付ける。


「悪魔に許しを請う天使。そちらの方が美学的センスを感じるな。ほれ、何か私に言うことがあるんじゃないか?」


 グリグリと天使の頭を床へと押し付けながらルシエルが問う。

 しかし天使は無言。

 されるがままになっている。


「ごめんなさい悪魔様、我々天使は不幸を撒き散らすだけの汚らわしい存在です。だからどうか許して下さい。そう言えば貴様は特別に苦痛を感じずに地獄へ落としてやるぞ。どうだ、悪魔にしてはとても寛容的な提案だと思うのだが」


 ルシエル自身、天使が本気で許しを乞うとは思っていないのだろう。

 どちらかというと、抗うことのできない憎むべき相手に対して楽しんでいるといった具合だ。


「我々天使を甘くみるなよ、悪魔風情が」


 しかし天使もただやられてばかりではないようだ。


「許しを乞うのは貴様の方だ、野蛮な悪魔め」


 天使はルシエルの足を押しのけるようにして立ち上がると、憎しみを込めて睨みつける。


「おぉ、良いぞ。やはりそうでなくては面白みに欠ける。甘美な絶望には敵意と戦意は欠かせぬからな。隠し味に極上の苦痛を与えればなお良し」


 黒い翼をふわりと揺らして宙に浮くルシエル。

 ペロリと舌舐めずりをするその表情は、背徳感に満ち溢れていた。


「ふざけるのも大概にしろ!例え最下級の階級と言えど、貴様ら悪魔を前にしていいようにやられるだけだと思うなよ!」


「ふむ、その気概は認めてやるが、で、どうするつもりだ?現世に干渉できぬ貴様らに私をどうこう出来るとは思えんが」


 腕を組んで天使を見下ろすルシエル。


「我々とてただやられて終わるだけではない」


「ほぉ、なら見せてもらおうか、人を騙し、誑かすしか能のない詐欺天使に何が出来るのか」


 天使はルシエルを無視しながら倒れたメローネへとおもむろに手を伸ばした。


「死を待つだけの人間をどうするつもりだ?」


 興味深そうに事の成り行きを見守るルシエル。

 天使は得意げに語る。


「大天使様の加護を授かることができる器だ。私の加護を全て注げば貴様と対等に渡り合うことも可能だろう」


 天使の手から溢れ出す光は瞬く間にメローネの体を包み込んでいく。


「本気で言っているのか?」


 ルシエルは心底驚いた様子で天使を見る。

 ため息すら漏れ始めたルシエルはやれやれと首を左右に振った。


「はぁ、最近の天使は馬鹿しかいないのか?」


「ほざけ悪魔め!」


「知性のかけらもない貴様に一ついいことを教えておいてやろう。穴の空いた器にいくら加護を注いだところで無に還るだけだ。加護の無駄遣いだぞ」


 ルシエルの忠告に、しかし天使は聞く耳なしといった感じで、ひたすらに加護をメローネへと送り続けている。


「何故だ!?どうして立ち上がらない!?傷を治癒するだけの加護は与えたはずだ!」


 いくら注いでも変化の見られないメローネに天使は思わず叫んでいた。


「やれやれ。貴様はそれでも天使か?加護とはそれを信ずる者が手にして初めて力を宿すもの。それ以外の者に与えたところで意味をなさないことが何故わからん」


 こめかみを抑えて心底馬鹿にしながらルシエルが言う。


「そんなこと貴様に言われなくとも知っている!くそ、何故だ!?大天使様の加護を宿すことのできる器だぞ!信仰心は確かなはず!」


「ならその信仰心が無くなったのではないか?」


「何を馬鹿な!そんな簡単に我々に対する信仰心がなくなるはずがない!!!」


「はぁ、その自信がどこからくるのかただただ疑問だな。信仰や崇拝とは、つまるところ自身の望みを叶えてくれるかどうかにつきる」


 ルシエルは床に横たわったまま動く気配のないメローネと、動くことのなくなった子供たちを等分に見つめながら語り始める。


「幸せになりたいと願う者。守りたいもののために全てを捧げる者。全てはその者の願いが叶うかどうか、ただそれだけだ。そしてそれが叶わぬと知ったのなら、意味をなさぬことを悟ったなら、信仰心も崇拝心も一瞬にして霧散してしまうだろうな。とくに、目の前で信じていたものに大切なものが奪われたのなら尚のこと」


「たかだか子供の魂を奪ったぐらいで何だ!!!願いを叶えたいならそれ相応の対価を差し出すのが道理だろ!!」


 ルシエルの言葉を理解できなかったのか、天使は吠えながらルシエルの言葉に噛み付いた。


「くくく」


 唇の端だけでルシエルが嗤う。


「何がおかしい!?」


「いや、なに。貴様のその考え方に近親感が湧いてな」


「なんだと!?」


「貴様、悪魔としての素質があるぞ。救いを求めるその行いに、対価を求めるなんぞ、まるっきり悪魔の考えだからな」


「貴様!!!」


 我慢の限界とばかりに天使がルシエルに向かって跳びかかった。

 しかしルシエルの胸ぐらを掴む寸前で、天使は再び床へと貼り付けになってしまった。

 天井から降り注いだ漆黒の矢によって、胸の中心を貫かれて。


「ガッハ!!!」


「落ち着け、別にその考えが悪いといっているのではない。ただ、天使失格だと言っているだけだ」


 余裕の表情で天使を見下すルシエルは何か妙案でも思いついたのか、おもむろにポンと手を打った。


「お、そうだ、もし貴様が望むのなら堕天の手伝いをしてやっても構わんぞ。どうだ?地獄は貴様のような者にはきっと住み心地が良い場所だぞ」


 ニヤニヤと天使の反応を伺うルシエル。

 当然そんなことを言われれば天使も黙ってはいない。


「主に仕えし我々に向かって、よくもそんな世迷い事を……!我々の行いは、全て、主の意思であられる。私の行いそのものが、主によって望まれた結果であり、答えである」


 天使の言葉が予想通りのものだったのか、ニヤニヤの増した表情のルシエルは天使の言葉を反芻しながら同じ言葉を繰り返す。


「主よ、主よ主よ主よ主よ主よ!!!!」


 高らかに叫ぶルシエル。


「全く馬鹿の一つ覚えに何かあれば主の導きだの、愛されているだのほざきおって。貴様らは一度でも見たことがあるのか?その主と呼ぶ存在を」


「なん、だと!?」


「ありもせず、存在し得ぬ偶像を信じて仕え、都合のいいように解釈しているようだが、果たして貴様の言う主が、本当に存在していると思うのか?」


「当然だ!主は、いつだって我々を見ていて下さっている。我々の存在こそが主の証明。主に認められたからこそ我々はこの世界に存在しているのだ!」


 ドス。


 天使の言葉を遮るように降り注いだのは2本の黒槍。

 天使の目の前で交錯し、黒く怪しい輝きで天使を照らしている。


「神殺しの槍。貴様らならその存在ぐらい知っておるだろう」


「それが何だ!!どうせ神器を真似して作った紛い物だろう!?上手く似せて作れたことを褒めてもらいたいのか?」


 挑発するような天使の言葉。

 しかしルシエルは無視して話を続ける。


「何故、神殺しと呼ばれる神器がこの世に存在すると思う?」


「なに?」


「疑問に思ったことはないのか?何故、神殺しという名で呼ばれているのかを」


「なにが言いたい」


「神を殺したことがあるからこその神殺し。なら、その名の通り神を殺したのではないか?おっと」


 ルシエルが不意に翼を揺らして床に串刺しとなった天使から距離をとった。

 すると一拍遅れて、ルシエルのいた場所に窓ガラスの破片を手にした男の子が割って入った。

 男の子の振りかざしたガラス片は目標を見失って空を切る。



 体から血を流した姿。

 瞳に生気はなく、動いていること自体が異様だ。

 頭上で浮かぶ金色の輪。

 それが何を意味するのか。

 悪魔のルシエルにはよくわかっていた。


「魂なき器を利用するその発想は褒めてやる。しかし……」


 再び襲い来る男の子を軽くあしらいながら、ルシエルが右手で男の子の首を絞め上げた。



 すると不思議なことに男の子はルシエルをすり抜けて倒れ込んでしまった。

 後に残ったのはルシエルに首を絞められてもがく天使の姿だった。


「くそ、離せ!!」


 穴の開いた翼を強引に羽ばたかせて逃れようとする天使だが、万力のように締め上げられたルシエルの手は微動だにしない。


「翼を撃ち抜かれても尚、挑んでくるその心意気は褒めてやる。ただ信仰心の無い器を乗っ取った所で加護は使えんぞ」


 ルシエルは手に持った天使をそのままに軽く腕を振る。

 まるでゴミを払うかのような動作。

 それだけで天使は近くの壁に打ち付けられ、壁を瓦礫の山へと変えるとそのままピクリとも動かなくなってしまった。


「っち!何で乗っ取れないんだよ!?」


 メローネが持つ十字架へと必死に手を伸ばすのは翼を失った別の天使。

 自ら引き裂いたのか、離れた場所には矢に貫かれたままの一対の翼が残されたままだった。



 そんな天使を見ながら、ルシエルがまたしても呆れながらに言う。


「どうやら下級天使の中でも相当な阿保の部類に入るようだな。生者の体を乗っ取るには相手の許可が必要だ。おまけに信仰心の薄れた器なんぞ、入ったところで意味をなさんぞ」


「それでも大天使様の加護を授かっていた器。乗っ取りさえすれば貴様相手でも負けはしない!」


 天使の挑戦的な言葉にルシエルは心底つまらなさそうに背中の翼をげんなりとさせた。


「あ〜、嫌だ嫌だ。馬鹿を相手にすることがこれ程つまらんものだとはな。せっかくの憑依も楽しさ半減だ。その程度で私をどうにかできると思っているとは気楽なことだな。ま、乗っ取れなければ話にもならんが」


 ルシエルが天使に向かって伸ばした腕を左から右に静かに切った。

 すると天使の背後に渦巻く闇が現れ、そこから3本の黒い矢が天使を貫きそのまま壁へと磔にしてしまった。


「魂が邪魔ならその魂を消せばいいだけのことだろ!」


 今度は別の天使の叫び声。

 しかし同時に現れたのは倒れていたはずの女の子だった。

 先程の男の子と同じで頭上には金色の輪。

 手にはガラス片が握られている。

 そしてその切っ先をそのままメローネへと突き刺そうとしていた。


「成る程。子供の器を使ってその女を殺すか。その発想はもはや感嘆に値するな。悪魔の常套手段をよもや貴様らが使うとは」


 ルシエルは翼を軽く揺らすと一瞬にして姿を消す。

 そして現れたのは女の子の真横。

 手のひらを女の子の顔に押し付けたまま、片膝をつくような動作でそのまま床へと叩きつけた。



 衝撃で床がひび割れ陥没する中、ルシエルが手を離すとそこにいたのは女の子ではなく天使だった。

 女の子は糸が切れた人形のようにバランスを崩すとそのままメローネの胸の上に倒れこんでしまう。


「おい!このガキがどうなってもいいのか!?」


「今度はなんだ?」


 ルシエルは動かなくなった天使をそのままに、面倒くさそうに声のする方へと振り返った。


 そこにいたのは、またしても頭上に金色の輪を携えた子供。

 動くはずのない女の子が壊れたオモチャの切っ先を自分の胸へと当てがっていた。

 薄っすらと見えるのは女の子と天井近くに浮遊する白い玉を繋ぐ光る糸。


「このガキの魂がどうなっていいのか!?呪詛を宿した魂だ。このご時世、悪魔のお前にとっちゃ貴重なものだろ?このまま天国にも地獄にも行かず、無に還すこともできるんだぞ!」


「確かにそれは困るな。その魂にはまだ用がある」


「だったらこいつの魂はお前にくれてやる。だから今すぐ憑依を解け!」


 子供を人質に取った天使の要求。

 それに対してルシエルは疲れを隠せないでいた。


「はぁ、どうやら根本的なところを勘違いしているようだから言っておいてやるが、貴様らがこの場でどう足掻こうと、結果は決まっておるのだ」


「な、何だ!?急に!!」


 女の子が狼狽えた様子で自分の胸を強く握り締めた。

 苦しむその表情は何が起きているのか理解できていない様子だ。


「呪詛を色濃く残した器に入れば拒絶反応が起きる。勉強になったか?馬鹿天使」


 ルシエルの声も天使に聞こえていたかどうか。

 女の子がその場に倒れ込むと、遅れて天使も崩れ落ちる。

 全身に火傷のような黒い痣を全身に宿しながら。


 その光景を見届けたルシエルは仕切り直しとばかりに、パンッと両手を叩いた。


「さてと、貴様らとのつまらんお喋りもここまでだ。そろそろ我が契約者エニシの望みを叶えさせてもらうぞ」


 ルシエルが顔の横で構えた指をパチンと鳴らす。

 すると辺り一面が赤黒い炎に包まれる。

 炎は次第に勢いを増し部屋全体を覆い尽くしていく。

 そして蝋燭の火のように、風が吹くとフッと一瞬にして消え去ってしまった。



 炎が無くなった後に現れたのは先程までいた孤児院の一室。

 場所に変化はない。

 焼けた後すらなく先程までと全く同じ光景。

 しかし何かがおかしい。

 同じ光景がずっと続いているその光景は、まるで時が止まったかのような錯覚を覚える。



 そしてその原因に一早く気付いたのはルシエルによって胸を貫かれた天使だった。

 矢が刺さったまま、よろめきながら立ち上がる。


「……幽世かくりよだと」


 目を見開きながら呆然と呟く天使。


「現世に干渉し過ぎるのも困りものでな。私ほどの呪詛を持つ者が暴れると無闇に周囲を傷つけてしまうのだ。なので貴様らには現世と異界の狭間に招待することにした」


「馬鹿め!墓穴を掘ったな!幽世かくりよであれば人間を使わなくても俺たち自らが力を振るうことができるんだよ!!」


 この状況をチャンスと捉えたのか、1人の天使が加護を使って翼に刺さった槍を消し去ると、ルシエルに向かって一直線に飛びかかった。

 しかし、結果それは失敗に終わる。


 ガブリッ。


 天使は突然現れた黒い何かによって飲み込まれてしまった。


「は?」


 突然すぎるその光景に、見ていた天使は素っ頓狂な声を上げていた。

 しかし徐々に黒い何かの正体に気付き始めると、天使は震える声を隠そうともせずに、その名前を口にしていた。


「ベ、ベヒモス……!?」


 それは黒い獣だった。

 天使を踏み潰せるほどの巨大な巨躯。

 4足歩行の獣が無理やり立ち上がったかのような奇妙な姿勢。

 黒に近い赤い瞳。

 獣特有の細い瞳孔は目の前の天使に向けられている。

 剥き出しの牙は見ているだけでこの場から逃げ出したくなる衝動に駆られた。


「な、なぜ、魔獣の王がここに……。これ程の魔獣の召喚には、膨大な呪詛が必要のはず……、まさか、お前……死炎の……」


 天使は自分が無意識に後ずさっていることに気付いていない。


「悪いが貴様らに名乗る名はないのでな。勝手に察して勝手に絶望していろ」


「馬鹿な、ありえない」


 天使はそう呟くのでやっとだった。

 理解を超えた事態に全くついて行けないでいるようだ。



 ルシエルが楽しそうに右手を振り上げる。

 すると天使たちを囲うように、無数の闇が現れた。

 入り口を炎で塞がれた巨大な闇。

 その奥でうごめくのは、赤い瞳を輝かせた黒い獣。


「ではでは、存在無き神に代わってこの私が直々に天罰とやらを下してやるとしようか」


 ルシエルが嗤う。

 悪魔に相応しいほど残虐に、そして見惚れてしまいそうなほど妖艶に。


「無垢なる魂を己の欲望で陥れた罪深き者共に苦痛と絶望を。そして契約者エニシの怒りをかった愚か者共に純然たる死を」


 ルシエルが右手を振り下ろす。

 同時に闇を塞いだ炎が全て消え去り、解き放たれるのは無数の獣の群れ。


「喰い散らかせ!ベヒモス!!」


 ルシエルの声に弾かれるようにして獣の群が一斉に天使たちへと襲い掛かった。


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