一片の穢れなき純白の肌
カランカランッ……。
不気味な程、静寂に包まれた教会内。
そこに響くのは床の上で小さく跳ねる小さな金属音だった。
やがて徐々に音を弱めながら、眠るようにしてそれすら聞こえなくなってしまうと、後に残されたのは静寂、ただそれだけだった。
しかしそんな静寂を打ち破るようにして、呆然とした声が教会の中で反響する。
「私としたことが油断したわ。まさか貴方みたいな契約者の持つ死器が、魂と器を隔絶するとされる“死の鎌”だったなんて」
地面に片膝を着けながらアイリスは未だに信じられないといった様子で呟いていた。
「天使様の加護は、全部持っていかれたみたいね」
アイリスは隣で静かに横たわるのは2本の剣に視線をやった。
1本はアイリスが初めから携えていたもの。
もう1本は魔法陣から飛び出した刀身が白一色のもの。
アイリスはその内の1本、白一色の剣が光の粒子を舞い上がらせながら、徐々にその姿をこの世界から消し去っていく姿を目で追いながら、状況を正確に分析していた。
「加護を私から切り離して、それで勝ったつもり? 私はまだ戦えるわよ」
アイリスはそれでも諦めないとばかりに、傍で横たわる愛剣を杖代わりにどうにか立ち上がった。
そして目の前に佇む黒一色の存在に向かって未だ衰えない敵意を宿しながら、瞳に力を込める。
その瞳に映るのは黒いローブに漆黒の翼。
そして肩にアダマスを担いだキョウヤの姿だった。
「加護を奪っただけで、私の魂を狩り取らなかったこと、後悔させてあげるわ!!」
ゆっくりと剣を構えるとキョウヤに向かって斬りかかろうとするアイリス。
しかしアイリスはキョウヤの顔を見た途端、これまで怒りを宿したその表情に更に屈辱を上塗りさせて、奥歯をグッと噛みしめた。
「敵から顔を背けるなんて、馬鹿にするのもいい加減に……」
我慢の限界とばかりに1歩前に出たアイリスだが、しかしそこでキョウヤの表情を見て何かを察した。
キョウヤは顔を横に向けてはいるが、視線はばっちりとこちらへと向けている。
赤らんだキョウヤの頬、まるで照れたようなその表情にアイリスは思わずその視線を追った。
そして気付いた。
自分があられもない姿を異性に晒してしまっているという状況に。
「…………っ!!!!!」
アイリスは怒りとは別の理由で顔を真っ赤に染めると、声にならない声を上げて固まってしまった。
そこにあるはずのものが無いことにアイリスは色んな意味で絶望の表情を浮かべていた。
「な……、どうして……!?」
身に着けていたものが1つもなくなっている。
それは腰に差してあった鞘に始まり、ローブや靴に至るまで。
更に自分の大切な場所を隠していたはずのものもなく、アイリスは1本の剣とその身一つでキョウヤと対峙する形になっていた。
「し、死の鎌が狩り取れるのは、魂と加護だけのはずじゃ……」
この展開が予想外過ぎたのか、動揺して思わずよろめくアイリス。
つられて、支えるものがなくなってしまった胸が優しく揺れると、キョウヤの頬に更に赤みが増した。
それに気付いたアイリスが慌てて、体を手で隠す。
しかしどう考えても隠しきれない部分がキョウヤの視線に晒され続ける。
羞恥心のせいもあってか、先程まで狂気に満ちていたサドスティックな少女は、今や恥ずかしさにただただ打ち震える、本当の意味でのか弱い乙女になっていた。
そんなアイリスの姿に、これまで黙って目の保養に務めていたキョウヤが申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にした。
「いや、その、悪い。まだ呪詛の制御が上手くできなくて……、加護だけ切り離すつもりだったんだけど、なんか、勢い余って服まで狩ったみたいで……」
敵に謝罪の言葉を口にさせるということは、つまり自分が勝ったに等しい行いだ。
なのに今のアイリスにとっては、ただただ屈辱的なものでしかなかった。
「よくも……、よくも……」
悔しさと恥ずかしさからか、アイリスは視線を落したまま声を震わせた。
「天使様にこの身を捧げると誓ったこの私に、よくもこんな辱めを……」
そして、静かに剣を構え直す。
「絶対に許さない!!!」
まるで親の仇のように強い眼差しで睨みつけるアイリス。
だがしかし、そこにキョウヤの姿は既になかった。
黒い羽だけがふわりと地に落ち、再び静寂が教会内を支配する。
後に残されたのは痛いほどの静寂と素っ裸にされた赤い髪の少女。
ただそれだけだった。
そしてキョウヤはこの時の出来事を後にこう語っている。
それはそれは天使信仰者に相応しき一片の穢れなき純白の肌だったと。
前話の更新直後にブクマが外され評価も下がり、モチベーションが下がった翌日にブクマと評価が付けられているという、地獄と天国を同時に味わった前話。
好き嫌いが別れる展開だったのかな?
まぁ、ともあれおかげでどうにか3日以内の更新は守れました。
評価とブクマをくださった方、ありがとうございます。
ではまた明日。




