殺してやりたい
先に仕掛けたのはアイリス。
小細工なしに真っ向からキョウヤへと斬りかかった。
「どうしたの!? やってることがさっきと変わらないわよ!!」
アイリスが繰り出す剣戟を先程と同じようにアダマスを操り防ぐキョウヤ。
間近に迫るアイリスの双剣は目眩がしそうなほどの輝きで満ちている。
キョウヤがアダマスで受ける度に光の粒子が弾け、その度にアダマスの一部が黒い霧となって消えて行く。
白い刀身に重なる魔法陣。
あれのせいでアダマスが徐々に浄化されている。
直感でそう判断したキョウヤは受けることよりも避ける事に専念した。
それでも躱しきれない一撃一撃がアダマスを削り取っていく中、このままではいずれアダマスがもたないと悟ったキョウヤ。
しかしそんな状況にも関わらず、キョウヤがアイリスに向かって仕掛けたのは攻撃ではなく、素朴な疑問だった。
「なぁ、一つ聞きたいんだけどさ、あの子達が何かしたのか?」
アイリスの絶え間ない連撃に決して余裕があるわけでは無かったが、それでもキョウヤは聞かずにはいられなかった。
「何をしたかですって? 面白い質問ね」
キョウヤの疑問にアイリスは表情を歪めると、攻撃の手を緩めることなく当然とばかりに答えた。
「呪詛を宿して生まれてきた。それ以外に何があるっていうの!?」
叫びと同時に振り下ろされた双剣には、純粋な怒りが纏っていた。
「それがそんなに悪い事なのか?」
キョウヤは避けることなくアイリスの一撃をアダマスで受け止めると、光の向こうでこちらを睨むアイリスへと、淡々とした口調で聞き返した。
「ふっ、貴方のような人間には到底理解できないでしょうね。存在自体が周囲に不幸を撒き散らしているとも知らずに、のうのうと生きてるんだから!!」
ギリギリとアダマスに自身の刃を食い込ませながら、アイリスがキョウヤへと押し迫る。
「不幸を撒き散らしてるのはお前らみたいな人間だろ。あの子達だって望んで呪詛を宿したわけじゃない。生まれたらたまたま親がそうだった。それだけじゃねぇか」
白く照らされたキョウヤの表情からは感情を読み取ることはできない。
しかし、その言葉の裏にはこれまで溜まっていた憤りが、捌け口を求めるようにしてアイリスへと向けられているようでもあった。
「望んでない? 馬鹿ね。そう言う次元の話じゃないのよ!! 存在自体が悪!!! 生きていること自体が大罪!!!! 平和のためにも彼らは死をもって償う他ないのよ!!!!!」
アイリスの言葉と共に魔法陣が双剣を飲み込んだ。
そして現れたのは白金の双刃。
「そして、それはあなたも一緒よ!!!」
教会内を覆い尽くすほどの圧倒的な光。
キョウヤは歯を食いしばりながら、迫り来る2本の光を押しとどめていた。
しかし光の刃はアダマスの半分を呑み込んで、尚もキョウヤへと迫って来る。
「…………話が通じると思ったこともあった」
キョウヤが顔をうつむかせながらポツリと呟いた。
「やめてと言えばやめてくれると思った」
また、ポツリと。
その声はあまりにか細く、そして拙く、まるで幼い子供のようだった。
「けど、いつだってお前らは人の話に聞く耳なんてもたない!! 自分の勝手な都合で人の幸せを奪おうとしやがって!!!」
そして声を張り上げて顔を上げたキョウヤの表情は今にも泣きだしそうなほどに弱々しいものだった。
しかしその反面、アダマスを握る手にはこれ以上ない力が込められていた。
同時にキョウヤの腕を伝って黒い血筋のようなものがアダマスへと流れ込む。
アイリスは辛そうなキョウヤの顔を見た途端、頬を紅潮させながらサドスティックな表情へと変えた。
「あら、悪魔に呪われて頭がおかしくなったのかしら? 残念だけど貴方達が“幸せになる権利なんてない”のよ!!」
猟奇的な笑みを浮かべながらキョウヤを否定するアイリス。
そんなアイリスに対してキョウヤはというと……。
「……あはは、あはははははは!! いひ、イヒヒヒッ!!!!!
笑った。
心の底から笑った。
気持ちがいいほど豪快に、そして気持ちが悪いほど歪に。
それはまるでキョウヤでない何かが取り憑いたようでもあり、それでいてキョウヤの本当の姿でもあるようだった。
「気持ちの悪い笑い方ね。虫唾が走るわ!!」
目と鼻の先まで迫ったアイリスに対して、キョウヤは目の端に涙を浮かべながら、再び顔をうつむかせた。
「いや、どこの世界でもお前らみたいな人間が言う言葉は決まって一緒なんだと思ってな」
思わぬ発見に喜びを感じながらも幻滅するようなキョウヤの声。
ゆっくりと頭を持ち上げると光に埋もれたアイリスを見る。
そしてその瞬間、アイリスの表情から笑みが消えた。
アイリスがキョウヤを見て何を感じたのかはわからない。
しかしこれまで怒りと狂喜に満ちたその表情に、一瞬ながらも恐怖が映ったことは確かだった。
キョウヤが無感情に言う。
今の自分の心を支配するただ一つの願望を。
「本当……、殺してやりたいよ」
キョウヤがアダマスに力を込める。
すると漆黒の棒は大きく自身を脈動させた。
まるでキョウヤから何かを呑み込むようにして。
もう少しでアダマスを切り落とす寸前まで来ていた光の双刃を、キョウヤは一気に跳ね上げた。
アダマスに刻まれた傷はいつの間にか消えている。
「なっ……!」
唖然とするアイリスを置いてキョウヤは一瞬にしてその場から姿を消した。
それをアイリスは目で追うことが出来なかった。
ただ、黒い残滓を視界の端に捉えることには成功していた。
「それで私の背後を取ったつもり!?」
アイリスは翼を揺らして無理やり重心を変えると、振り返りながら剣を振るおうとするも、しかしそこにキョウヤの姿はなかった。
「そうだけど」
聞こえてきたのは自分の背中から。
アイリスは振り返るよりも先に右手の愛剣を声のする場所に向かって躊躇なく斬り付けた。
……しかし手応えがない。
慌てて後を追うアイリスの瞳。
その瞳に映るキョウヤの姿にアイリスは信じられないといった表情を浮かべた。
小さく震えるその口から零れたのは無意識のものだったかもしれない。
「死神…………!?」
アイリスの視線の先には確かにキョウヤがいた。
ただ、いくつかその姿を変えて。
その瞳は血よりも深く朱く、背中には黒いローブから生えた漆黒の翼。
地面に左手を当てて体を支えながら重心をギリギリまで低く保ち、アイリスの光刃を躱している。
アダマスの端ギリギリを掴んだ右手を自分の体に巻き付けるようにしてキョウヤは構えていた。
そしてアダマスの先端にはこれまでに無かった刀身が姿を現していた。
黒一色、闇そのもの。
腕にはアダマスに吸われるように浮き出ている黒い血筋のようなものが鼓動のように脈打っている。
半月状の巨大な刃はキョウヤよりも大きく、そしてキョウヤと同じくらい黒い何かを孕んでいた。
さっきまでとはまるで違うその姿。
更にキョウヤの持つ黒刃を見て、アイリスは呻くようにしてその言葉を口にした。
「……まさかそれは、……“死の鎌”!」
一拍遅れてキョウヤが構えたアダマスをアイリスに向かって下から薙ぎ払うように斜めに斬りかかった。
「狩り取れ!!! アダマス!!!!!!」
「マズい……!!」
アイリスは咄嗟に2本の剣を交差させてアダマスを受け止めようとした。
光が収束し、浮かび上がるのは持ち主を覆い隠すほどの巨大な重盾。
十字架が刻まれた聖なる盾は襲い来る凶刃を跳ねのけようとあらん限りの輝きを放つ。
だが、結果的にそれは失敗に終わった。
ヒンッ!
風を切る音と同時にアダマスはキョウヤの元へと帰っていた。
薙ぎ払った刃の残した軌跡に、盾とアイリスを無慈悲に残して。
連日投稿は出来なかったけど、それでも3日以内は守れている!
偉いぞ自分!
てことでまた3日以内に会いましょう。




