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少年と悪魔の天使狩り  作者: ぐーてん
第2章 悪魔崇拝者と天使信仰者
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悪魔を纏った契約者

「これだから悪魔契約者って気に入らないのよ!! 人を馬鹿にしては悦に入って!!!!!」


 アイリスは背中の翼を小刻みに羽ばたかせながらキョウヤの死角を突くように、2本の剣白けんびゃくを叩き込む。

 先程よりも手数が多く、更に空中を移動されている分、捌ききれない斬撃がキョウヤの皮膚を薄く切り裂いていく。

 傷口も呪詛により瞬時に塞がってはいるが、それでも押されていることに変わりはない。

 このまま続けばいずれ致命傷は避けられないだろう。


「くそっ……!」


 心臓を狙った一撃をアダマスを盾にして受け止める。

 しかしすぐに別の一撃がキョウヤの首を狙ってくる。

 隙あらば急所を狙ってくるアイリスにキョウヤはただ本能に従ってアダマスを振り回すしかなかった。


「最近は悪魔も契約者も狩り尽くしたおかげで、退屈してたのよねぇ」


 焦りが浮かぶキョウヤとは対照的に、アイリスの表情にはまだまだ余裕が感じられた。


「ほら! 高位の悪魔と契約してる以上、たかだか棒きれ1本振り回して終わりじゃないんでしょ!! もっと私を楽しませてちょうだいよ!!」


 アイリスは右手の剣を逆手に持ち変えると、独特な剣捌きでキョウヤを追い詰めていく。

 加速するアイリスの斬撃。

 距離を取ろうとするキョウヤを瞬時に追い詰めては縦横無尽に剣を振る。

 まるで舞うようなアイリスの双剣術。

 戦うことに悦びを感じているのか、アイリスの声は徐々に熱を帯びていく。


「『悪魔の憑依』は!? 『魔獣の召喚』は!? どうせだったら『死器しきの解放』ぐらい見せてみなさいよ!!!!!」


 アイリスは叫ぶと同時にバク転するかのように空中でクルリと回って見せた。

 その時蹴り上げた足がアダマスを捉えると、キョウヤの手から唯一の武器を剥ぎ取ることに成功する。

 床を滑るアダマス。

 キョウヤが咄嗟に手を伸ばしたその隙を突いてアイリスは持っていた剣を投げ放った。


「カハッ……!」


 右肩を貫いた白刃の剣はそのままキョウヤを壁へと磔にした。


「はぁ、はぁ、何よ、つまんないわね。防御だけで攻めは全然。受け身ばかりじゃ女の子を満足さられないわよ」


 肩で息をするアイリス。

 それは疲れによるものか、もしくは興奮してのものかはわからない。


「貴方が使ってるあれ、一応死器(しき)なんでしょ。神器しんきに似せて作られたまがい物……」


 アイリスは軽蔑するように床に転がるアダマスを一瞥する。


「だったらあのままなんてことはないわよね。それとも使いこなせないのかしら?」


 馬鹿にされたお返しにとばかりに、アイリスがキョウヤを見下すように嘲笑する。


「悪いけど貴方は選別に使ってあげない。私自らがこの手で無に還してあげるわ!!!」


 アイリスは手元に残った剣を軽く振って鋭い瞳でキョウヤを射抜く。


「……選別?」


 キョウヤは痛みに耐えながら自分の肩を貫いた剣の柄を掴んだ。

 しかしその瞬間、更なる激痛が柄からキョウヤの体へと駆け巡った。

 まるで剣自体がキョウヤから触れられることを拒むように白い輝きで覆っている。



 喘ぐキョウヤの姿にアイリスは満足そうに唇を吊り上げた。


「あら、知らないの? だったら貴方の言う頭の悪い悪魔にでも聞いてみるといいわ」


「おいルシエル、馬鹿にされてんぞ」


 キョウヤの呼びかけに目の前で黒い霧が集まり始めると、その中からルシエルが姿を現す。

 しかしキョウヤには見向きもせずにルシエルは驚愕するようにしてアイリスを見ていた。


「まさか……選別だと……」


「おい、ルシエル……?」


 様子のおかしいルシエル。

 呆然としたその姿はアイリスの言葉を受け入れることを拒否しているようにも感じる。



 しかし茫然自失となったのも一瞬。

 ルシエルは拳を握り、奥歯を食いしばると、キョウヤへと振り返った。


「おのれ!! 詐欺天使め!!!」


 そのまま串刺しとなったキョウヤの襟元を掴んだルシエル。

 状況が全くもって理解できないキョウヤ。


「お、おい!? なんだよ急に!!」


「ええい!! 今すぐ私に憑依させろ! あのアバズレを地獄に送ってやる!!!」


「おい待てって!!! 落ち着けよ!? 一体どういうことだよ!?」


 慌てるキョウヤの姿に悪魔が見えていなくとも、アイリスにはルシエルがどういう気持ちでいるかがわかっているようだ。


「ふふ、悪魔でもやっぱり悔しいものなのね」


 面白そうにキョウヤとその前にいるであろうルシエルを見つめるアイリス。


「それもそうかしらねぇ、選別による降臨の儀さえなければ100年前の争いは貴方達の勝ちだったっていうし」


「おい、何なんだよ選別って!!」


 状況についていけないキョウヤ。

 しかしルシエルはそんなキョウヤを一切無視して無理矢理、憑依しようとする。


「うるさい! いいから私に体を寄越さんか!!」


「そう言われて、はいどうぞって渡すわけないだろうが!!」


 キョウヤはルシエルを振りほどこうとするが、肩を貫く剣のせいで体が上手く動かすことができない。

 加えて叫ぶと痛みで頭がどうにかなりそうになる。


「選別を口にする者は誰であろうと許さん!!」


『いいから何がどういうことなのかぐらい教えろよ!!』


 声を出すのを辞めて刻印を使ってルシエルに訴えかけるキョウヤ。


『あの女を地獄に落してからいくらでも教えてやる!!」


 しかし血走った目をしたルシエルは中々言うことを聞こうとしない。

 キョウヤの服を捲り上げると刻印に手を伸ばす。

 だが、キョウヤの方もだからと言って黙っているわけでもない。


『だから待てって言ってんだろ!!!!!!』


 キョウヤが刻印を通してありったけの声で叫んだ。

 胸の刻印が一際強い輝きを放ち、ルシエルの瞳から光が消えた。

 キョウヤは激痛を堪えながら邪魔な剣を強引に抜き取ると、そのまま力無く投げ捨てる。



 アイリスは捨てられた自身の愛剣に手をかざすと、掌に光を集めた。

 すると当然のようにして愛剣はアイリスの手の中へと吸い寄せられるようにして戻って行く。

 2本の剣をぶら下げながらアイリスは面白そうに事の成り行きを見守っていた。



 朦朧とする意識の中でキョウヤはルシエルに“メイ”を使った。

 事情を話せというキョウヤのメイにより、ルシエルが渋々といった感じで唇を動かす。


「……“選別”は、連中の言葉で言うと、神に愛された魂を区別するための方法として使われている、謂わば運試しのもうなものだ」


「運試し?」


「あら、酷い言い方ね。ちゃんと神聖なる行いによるものよ」


「奴らは運良く生き残った子供のことを神に愛されているとほざき、天使へとその魂を捧げる。そうすることで、降臨の儀が上手くいくと信じているからだ」


「降臨の儀って天使を現世に呼ぶってことか?」


「正確には留めるといった方が正しい。現世の住人である人間を器としてな。簡単に言えば、悪魔による魂への憑依と似たようなものだ」


 漠然とだがキョウヤにもルシエルの言っていることは理解出来た。


「そして、選別の対象だが、これはその時代に不要とされる子供が選ばれることが多い。何故なら選別で選ばれなかった子供には死が待っているからだ。選ばれようと、選ばれなかろうと、死が待っている。最低の行いだ」


「死が待ってるって……、なんだよそれ」


「なにより解せんのは、選別自体に意味がないことだ。げん担ぎ程度のものに罪なき子供の魂を捧げるなんぞ、愚か者のすることだ」


 キョウヤにはルシエルがどうして怒っていたのか、その理由が分かった。

 何故なら自分の中に芽生えた感情が、正にルシエルが抱いていたものと同じだから。



 特に、“不要とされる子供”。

 その言葉は痛いほどにキョウヤの胸を締め付けた。



 いらない。

 邪魔だ。

 目障りだ。



 蘇る過去の記憶にキョウヤの心に自然と生まれた感情があった。

 それは憎しみ。

 暗くて黒い、闇の色。



 キョウヤは感情に支配されるようにして、目の前の少女を睨みつけた。



 そんなキョウヤを嗜虐的に見つめるアイリス。


「あら、良い表情かおになったじゃない。そうそう、そういう何がなんでも許せないって感じの顔、私好きよ。自分達の罪深い行いを棚に上げておいて、よくもぬけぬけとって感じで」


 キョウヤは黒い呪詛が覆う肩を抑えながらゆっくりと立ち上がった。

 傷口はまだ薄っすらとだが残っている。


 おそらく呪詛に抗うように傷口に残った白い粒子によるものだろう。

 天使の加護なのか、傷が塞がろうとするのを邪魔しているように見える。


「おい、ルシエル。もしかしてさっきの男って」


 キョウヤはルシエルの話を聞いて直感的に嫌な予感がした。

 不要な子供と聞いて頭に浮かんだのが孤児院の子供たちだったから。



 加えてここにいると思われるメローネの姿はなく、ミユもいない。

 おまけに目の前の少女の仲間と思われる男は、何かを追いかけるような口振りでここを飛び出して行った。


「可能性はある。むしろ状況的にはそれ以外に考えられん」


 ルシエルもキョウヤと同様の考えのようだ。


「さっきの男はどこに行ったんだ?」


 キョウヤが鋭い眼差しのままアイリスへ問いただす。


「聞かれて答えると思うの? 契約者の分際で」


 しかし返ってくる言葉は当然と言えば当然のものだった。


「けど、今の貴方になら教えてあげてもいいかもね」


 アイリスは嘲笑うようにキョウヤを見ると、面白そうに口元を歪ませた。


「この街にいる悪魔契約者の子供を選別に使うの。そのために居場所を知る女に案内役をさせてるところよ」


 自分の予想が的中していたことに、キョウヤは隠す気なんてさらさら無いとばかりに、感情の赴くままにアイリスを睨みつける。


「あっは! いいわよ貴方。今まで出会った悪魔契約者の中でも一番そそる表情かおしてる!! 本当……殺してやりたいわぁ」


 頬を赤らめながらアイリスは剣を持ったまま自分の両肩を抱くと、ゾクゾクと体を震わせた。


「心配しなくても、貴方の後を何人かは追うことになるだろうから安心してもいいわよ」


 アイリスの目に見えた挑発にキョウヤの怒りは限界だった。


契約者エニシよ。私が憑依して一瞬で終わらせてやる。だから……」


 ルシエルも居ても立っても居られないといった様子だ。

 しかし、キョウヤはルシエルの提案をきっぱりと断る。


「いや、俺がやる」


 肩の傷はようやく塞がってはいたが、それでも立つのはやっとだった。


「どうするつもりだ?」


 ルシエルの疑問にキョウヤは端的に答えた。


「“アダマス”を使う」


 それを聞いたルシエルは、眉根を寄せながら困った顔でキョウヤを見た。


契約者エニシがそう言うのであれば、私はただ従うだけだが……、本当に使えるのか? アダマスを“死器しき”として開放するにはまだ特訓の途中だ」


 キョウヤはルシエルの肩に左手を置くと、右手で小さな闇を作り出した。

 何かを集中するようにキョウヤが目を閉じると、落ちていたアダマスは地面に呑まれるようにして消えて無くなり、そして再びキョウヤの手元に戻ってきた。


「トラウマ寸前とまではいかないけど、感覚はなんとなくだが覚えてる」


 キョウヤはどこか懐かしむように口の端だけで笑ってみせた。


「それになにより……」


 キョウヤがアダマスをぎゅっと握り締めた。


「あいつは俺の手でやらないと気が済まない」




「あら、ようやく本気になってくれたのかしら?」


「ルシエル、力を貸してくれ」


「ふぅ、別に頼まんくても命じてくれればいくらでも貸してやるのに。ま、ようやく私の契約者らしい面構えになったようで一安心といったところか」


 キョウヤの顔を満足気に見つめながらルシエルは自身を黒い霧のようなものへと変えた。

 そしてそのままキョウヤを覆うように霧が渦を巻くと、やがて黒一色のローブに身を包んだキョウヤが現れた。



 アダマスの中心を両手で掴んで構えるキョウヤ。

 その姿を見たアイリスが不快な表情を浮かべる。


「まだふざけてるつもり? 肉体や魂に憑依するわけじゃなくて、ただ悪魔を“纏う”だけなんて。やっぱり私を舐めてるのかしらね」


「いや、俺に出来る限界を超えようとしてこれなんだけど」


 表情を変えずに冗談混じりなキョウヤの言葉に、アイリスは呆れてものも言えないといった感じだ。


「あっそ、もう少し楽しめると思ったのに期待外れもいいところね。もういいわ。これで終わりにしましょう」


 アイリスが2刀の剣白を逆手に持ったまま胸の前で手を重ね、祈りを捧げた。


「天にまします我らの父よ。穢れし存在から人々守らんとする者に神のご加護を。そして道を踏み外し嘆く者に魂の救済を……」



 アイリスが祈りを捧げると同時に2本の白刃がこれまで以上の輝きを放ち始めた。

 刀身には幾重にも重ねられた魔法陣。

 闇を否定するその輝きは増す一方だ。



 対してキョウヤの方は、よろめくようにして胸の刻印に手を当てていた。

 

 押し寄せて来るのは負の感情。

 それは湖でルシエルの心を覗こうとした時と全く同じ感覚だった。

 怒りや憎悪といった黒い何かが濁流となって自分の中に流れ込んでくる。



 あの時は立っていることもままならなかったが、今は違う。

 集中すればする程、まるで自分の感情のようにそれを受け入れることが出来た。



 ただただ憎くて、ただただ殺してやりたい。

 許せないなら我慢する必要はない。

 力があるなら振るえばいい。

 我慢して失うのは、もうごめんだから……。


何だかんだで連日更新できてる自分を褒めたい今日この頃。

ようやく主人公が主人公らしく戦うシーンを書くことが出来て満足してます。

と言ってもちゃんと戦うのは次話になっちゃったけど。

かかった文字数10万字。

うん、長かった。

この調子でじゃんじゃん行っちゃおう!

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