剣姫の乙女
少女の突然の質問にキョウヤは一瞬どう答えるべきか悩まされた。
相手の真意がわからない。
向こうの言葉に正確に答える義理はないし、こちらの情報を与えるのは得策ではない気がする。
キョウヤは隣で少女を睨み付けるルシエルにちらりと目を向ける。
思い出すのはこれまでのルシエルの傍若無人な数々。
人の魂に勝手に憑依しようとしたり、知られたくない秘密を妹にばらすと脅してきたり。
おまけに妹の真似をしてとんでもない事を言おうとしたり。
思い返す度に蘇るのはそんな悪魔に対する単純な腹立たしさだった。
しかし相手が馬鹿だからしょうがないかな。
そう思うと少しは気分も晴々とスッキリとする。
だからキョウヤは少女に向かって八つ当たり気味に素直に思ったことを口にした。
「いや、知性の欠片も無い悪魔だけど」
しかしそれを聞いた当の悪魔は当然黙ってはいない。
裏切られたような表情を浮かべるとキョウヤに向かって食って掛かる。
「おい契約者よ!! それはどういう意味で言ったのだ!? 勿論相手を油断させるためなのだろうな!? 私を知性のない馬鹿な悪魔としての回答ではないだろうな!!!」
「ああ、うっせぇな! こっちに集中出来ねぇから黙ってろよ!!!」
「ふむふむ、状況から察するに、そこにいるのは高位の悪魔のようね」
1人納得するように少女は呟いた。
「そうだよ。出来ればそのまま帰った方が身のためだと思うぞ。うちの悪魔は馬鹿でも一度暴れたら手がつけられないからな」
キョウヤは虚勢を張って強がってみる。
できればそのままどこかへ行ってほしいというのがキョウヤの本音だった。
「あら、言ってくれるわね。この私が誰だか知っての発言かしら?」
しかし目の前の少女にはあまり効果はないようだ。
それだけ自分の力に自信があると言うことだろうか。
キョウヤの警戒心が数段跳ね上がる。
「剣姫の“アイリス”。この名前を聞けば貴方にもわかるんじゃない?」
少女は口元を歪めながら自信たっぷりに名乗りを上げた。
きっと名前を伝えれば相手が臆すると思っているのか、その表情は絵にかいたようなドヤ顔だった。
「いや、ごめん。得意げに名乗ってもらって悪いけど、初耳なんだけど」
しかしこの世界に来てまだ半月程度のキョウヤにとっては残念ながら知る由もない名前だった。
「ふふ、なるほど、私を挑発して動揺を誘おうってわけね」
ドヤ顔を決めた分、それが失敗した時の反動はかなり大きかったようで、アイリスと名乗る少女は顔を赤く染めながらぶるぶると両肩を震わせている。
「けど、その程度じゃ私の魂は揺さぶれないわよ!」
どうにか精神的再建を果たして剣を構え直すアイリスだが、しかしキョウヤが追い打ちをかけるように嫌味を放つ。
「胸は無駄に揺れてるのにか? ってうちの悪魔が言ってるんだけど」
おそらく天使に似たアイリスの姿にルシエルが嫌悪感を抱いたのだろう。
加えて、そんな嫌いな相手が自分よりも胸が大きいことへの嫉妬もあったかもしれない。
額に青筋を浮かべるアイリス。
キョウヤに向けた剣先がカタカタと震えていることから、相当怒っていることが良く分かる。
「い、いいわ、貴方に教えてあげる。死んでも忘れないようにその魂に刻み込んでね」
そしてアイリスは声までも振るわせて改めて自己紹介を始めた。
「私の名前はアイリス。大天使様から加護を授かることができた、世界で10人しか存在しない、選ばれし聖騎士の1人。そして、女性で初めて“剣”の称号を承った可憐な『天使祈願者』」
聞き慣れない言葉にキョウヤが刻印を使ってこっそりとルシエルに質問する。
『おい、天使祈願者って何だ?』
『詐欺天使から与えられた加護を魔法として意のままに操ることができる天使信仰者のことだ』
ルシエルの説明を聞いたキョウヤは感心するように呟いていた。
「へぇ、何をもって可憐て言ってるのかはわかんないけど、その辺はまぁいいか」
刻印は使わず無意識に声に出ていたキョウヤ。
それを聞いたアイリスの額に青筋が数本追加された。
どうやら彼には無自覚に相手を怒らせる才能があるらしい。
「そ、そして……」
アイリスがゆらりと片手を突き上げた。
天井に浮かぶのは白く輝く幾何学模様の魔法陣。
「貴方とその契約した悪魔を浄化する……」
キン!
魔法陣から飛び出してきた1本の剣がアイリスの足元へと突き刺さった。
黒を否定するかのような白い刀身。
空いた手で剣の柄を握るアイリスは、決意の瞳でキョウヤを睨みつける。
「怒りに打ち震えし、か弱き乙女よ!!!!!」
両手に剣を構えたアイリスは翼を大きく羽ばたかせると、キョウヤに向かって一直線に飛びかかった。
早めの更新に自己満足。
ではまた3日以内に。




