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少年と悪魔の天使狩り  作者: ぐーてん
第2章 悪魔崇拝者と天使信仰者
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選別と降臨の儀

「メローネか?」


「アロン、久しぶりね」


 キョウヤが孤児院を出た同時刻。

 街の中心にある教会にて顔を合わせる2人の聖職者がいた。


教会ここから送った『白鳩しらはとの矢』は届いたかしら?」


「ああ受け取ったよ。なんでも、“死炎の悪魔”が現れたそうだな」


 アロンと呼ばれた白いターバンを巻いた男は、懐から1枚の紙切れを取り出すと内容を一瞥してから再び懐へと戻した。


「ええ、信じられないような話だけど、今この街にいるわ。貴方とは聖都で色々あったけど、ここへ来てくれたことに今は素直に感謝を」


 メローネはアロンに向かって軽く頭を下げようとした。

 しかしアロンは手でそれを制する。


「いや、すまんがここへ来たのはそちらの件ではないんだ」


「どういうこと? 死炎の悪魔の浄化に協力してくれるために来たのでは?」


 メローネの表情には若干の戸惑いが混じっている。


「悪いが我々がここを訪れたのはお前からの連絡を受けてではない。元々この街へ訪れる予定があっただけであって、決して死炎の悪魔の浄化が目的では無い」


 アロンはメローネの言葉をはっきりと否定してみせる。


「なら、どうしてこの街へ?」


 メローネの疑問。

 それに対してアロンは視線だけで教会の入り口を見るよう促した。

 メローネがその視線の後を追うと、ちょうど談笑しながら扉の前を通り過ぎる集団が目に入った。

 更にその中心にいた小柄な少女を見つけると、メローネが目を大きく見開いた。


「祈り子様!? どうしてここに!? あの方は祈願祭までそのお姿を人前に晒してはいけない身のはず!!」


「ああ、私もそう言ったんだが、次の祈願祭は何としても成功させたい。そのお気持ちからどうしても自分で各地を見て回ると言って聞かなくてな。おかげで聖都に在中していた選りすぐりの聖騎士を動員しての警護だ」


 苦笑い気味なアロンに対してメローネは、そう言うことならと、話を戻す。


「なら、ついでで構わないので死炎の悪魔の浄化を!」


「メローネ。悪いがそれよりも優先させなければならぬ使命が我々にはあってだな……」

「死炎の悪魔の浄化以上に優先させる使命など無いでしょう!!」


「はぁ、メローネ。お前に言いたいことは山ほどあるが、まず第一に言わせてもらいたいことがある」


 アロンは言葉をそこで切るとまるで馬鹿にするような目でメローネを見た。

 そして失笑気味に口元を歪めた。


「本気で死炎の悪魔が現れたとでも?」


 メローネはそんなアロンの態度に対して表情一つ変えることなく、凛とした表情で訴えかける。


「高い呪詛を持ち、名前も一致しています」


「聞いた話では契約者はまだ子供だそうじゃないか。使い魔に憧れの悪魔の名前を付けた可能性もあるぞ」


「使い魔にあれほどの呪詛はあり得ません」


「なら、高位の悪魔である可能性はあるだろうな」


「なら……」


「しかし、それでも死炎の悪魔である可能性は皆無だ」


 メローネの主張をきっぱりと否定するアロン。

 そんなアロンに対してメローネの表情がやや鋭いものへと変わった。


「どうしてそう言い切れるのです」


「かつて死炎と契約した者がどんな人間だったか知っているか?」


「勿論です。罪無き1000の魂を生贄にして契約を果たした重罪人です」


「そうだ。しかしそれはあくまで死炎を現世に呼ぶための謂わば道を開いたに過ぎん。更に契約するとなると、ある条件が必要だ」


「……憎しみのことですか?」


「ああ、そうだ。あれ程の悪魔と契約できる憎悪の持ち主はそうそう生まれるものでもない。ましてや子供にそれ程の憎しみを持つきっかけなんぞあるはずがない。あっても嫌いな友達を殺したい。その程度だろう。それらを踏まえて言わせてもらうとだな、お前の話はただの勘違いと言わざるを得ん」


 またしても、はっきりと自分の主張を否定する目の前の男に、メローネが何かを言おうとするも、その先はアロンによって遮られてしまった。


「私は」

「メローネ。かつて聖都で天使信仰司祭を務めた仲だ。お前のことはよくわかっている。悪魔関係者の人間にも救いを。そう主張するお前とはよくぶつかり合った」


 まるで昔を懐かしむかのようなアロンの口調。


「祈り子様から悪魔狩りの命があった時も狩るのは悪魔に限定するよう信仰者たちに呼びかけていた……。本音を言うとだな、今ここで貴様を反逆罪として罰してやたいところだが、まぁそれは水に流そうではないか。ただし、次の祈願祭のために我々に協力するのであるならな」


「何が言いたいのです?」


「次の祈願祭では『降臨の儀』を執り行うことになった。成功すれば、100年ぶりに天使様が現世に舞い降りることになるだろう」


「降臨の儀を! しかし、そのためには天使様が現世に留まって頂くための器が必要では……?」


「それは祈り子様自らが志願して下さった」


「そんな……、祈り子様が……!」


「あの方ほど、高い『神聖力』を保有される者は他にいない。祈り子という大役を他に担える者がいない以上、今後の祈願祭に影響が出るだろうが、しかし、天使様が降臨して下されば、そのお言葉を聞き届ける存在はさほど重要なものではなくなるだろう。天使様自らが我々に道を示してくださるのだからな」


「な、なら……、何としても成功させなくては」


「ああ、その通りだ。祈り子様が危険を冒してまで巡礼されているのはそういう事情もあってのことでな」


「そういうことでしたか」


「ただ、私はそれだけでは心配な所もある。万に一つの可能性すら消し去りたい思いから、私は100年前と同じ方法で降臨の儀を執り行おうと思っている。無論、祈り子様の巡礼でも十分とは考えているがな」


「100年前と同じ……、もしかして!?」


「ああ、神に愛されし魂を捧げることで、天使様の降臨を確実なものにしたい」


「アロン、貴方まさか!?」


「我々は『選別』を行うことにした」


 選別。

 その言葉にメローネの表情が絶望で彩られた。


「せ、選別は100年前の祈り子様により“禁忌”扱いされたはずです!! この事を祈り子様はご存知なのですか!?」


「いや、祈り子様には伝えていない。あの方には我々の同行はあくまで警護のためと伝えているからな」


 悪びれる様子もなく答えるアロンにメローネの表情にこれまで見せなかった怒りが露わになった。


「貴方、祈り子様を蔑ろにしてそのような行いがいかに罪深いものか……!」

「これは天使信仰本部、最高意思決定機関、枢機卿すうききょうによるものだ。祈り子様の許可を得る必要はない」


「そんな……」


「そこでだ、メローネ。お前はかつて悪魔関係者にも救いをと主張して、その地位を剥奪された憐れな女だ。最後ぐらい天使様の役に立ちたいとは思わんか?」


「貴方の愚行に協力をしろと? 私は今でも自分の信念を疑ったことは一度もありません! そのような世迷いごとに協力するくらいなら、いっそ、主の元へ行くことを選びます!!」


「やめておけ、自ら死を選んだ者にその資格はない。悪魔と共に地獄へ行きたのか?」


「主はいかなる時でも私たちの傍でその行いを見ていて下さっています! 私が選んだ選択も、必ずや主によって……」

「なら、こういうのはどうだ?」


 男の言葉と共に教会の奥から聞こえて来たメローネにとって聞き覚えのある声。


「ママー!!」


「ミユ!? どうしてここに!?」


 姿を現したのはミユを腰に抱いた1人の少女だった。

 フードから零れる燃えるような赤い髪が特徴的だ。



 メローネは少女がミユを抱く反対の腰に差してある剣を見て何かに気付いたようだ。


「大天使様の加護が与えられたつるぎ……。聖都の聖騎士パラディンですか」


 少女が剣の柄に手を伸ばす。


「アロン! その子をどうするつもりです!?」


「我々は祈り子様の命により、この子を処罰する権利が与えられている」


「あの方がそのようなことをお許しになるはずがありません!」


「悪魔狩りを命じられた」


「なら悪魔だけを殺すべきです!!」


 アロンはやれやれと首を振った。

 その表情は融通の利かない子供の相手をする大人のようだ。


「なぁメローネ。お前はどこからどこまでが悪魔だと判断する? その境界線は?」


「言葉の意味がわかりません。悪魔は悪魔です。それ以上でもそれ以下でもありません」


「なら、悪魔が使役する使い魔は?」


「当然悪魔です。何が言いたいのですか?」


「例えばだ、下級の使い魔には意思はなく、謂わば使役する悪魔が持つ呪詛の塊のような存在だ」


「ええ、それが何か?」


「なら、呪詛そのものが悪魔の定義に当てはまる。そうは思わんか? なら、それを宿した子供も、即ち悪魔と呼ぶに……」

「アロン!? 貴方のその解釈は祈り子様の意思に背いています!!!!」


「お前こそ、何をもってそう判断する? 祈り子様がそう仰ったのか?」


「なら、直接聞けばいいだけのこと!!」


 そのまま教会の外に向かおうとするメローネにアロンが氷のような冷たさで忠告をした。


「メローネ、それはやめておけ」


 メローネが振り向いた先には聖騎士パラディンの少女が鞘から抜いた剣先をミユの喉元に突きつけていた。


「アロン、貴方という人は!!」


「では本題に入るとするか」


 口元を吊り上げて満足そうにアロンが嗤う。


「お前が面倒を見る穢れた血を持つ者がいる場所へ案内してくれないか?」


 それはお願いという名の脅迫だった。


「悪魔契約者の子供を選別に使うつもりですか?」


「ああ、その通りだ」


 メローネが胸の前でぎゅっと両手を握り締めた。

 その手は見るだけで痛いほど強く握られている。


「仮に……、貴方の解釈通りだとするのなら、その子は悪魔ということになります……。選別で選ばれた神に愛されし魂が、悪魔というのはどうなのです?」


「選別で選ばれたなら、この子は悪魔ではない。ということになるな」


 メローネはアロンの言葉に言い返すわけでもなく、ただそのまま押し黙ってしまった。


「メローネ、諦めろ。選別は決定事項だ。この子でなくとも他の子で行われることになる」


「選ばれなかった子供がどうなるかわかっているのですか?」


「死が待っていることは当然知っている。ちなみにお前がここへ来る前に既に選別は行なわれている。丁度そこでな」


 アロンはメローネの足元に視線を送った。

 よろめくように一歩後ろに身を引くメローネ。

 そして何かに気付いた様子で口元を押さえながらその場にペタンと座り込んでしまった。


「ああ、なんということを……」


「しかし、おかげで1人、神に愛されし子供を見つけることに成功したぞ」


 メローネとは対照的にアロンの表情はとても明るいものだった。


「ここへ来る前に悪魔が現れたとされる隣街に寄ったんだ。そこで、その悪魔のことを女神と呼ぶ不届き者がいてな。選別に使わせてもらった。一緒にいた兄の方は選ばれなかったようで、残念ではあったがな」


「主よ、どうかお許し下さい……」


 胸元から取り出した十字架のネックレスを握り締めるメローネ。


「さあ選べ。この子を今目の前で殺されるか、それとも他の子供とともに選別で生き残る可能性に賭けるか、どちからをな」


「私は…………、私は、かつて聖都を去る際に主に宣言しました。自分の信念を貫き1人でも多くの悪魔と関わりを持つ子供を救うことを。それは今でも変わりません」


 メローネは震える足を支えながらどうにか立ち上がると、強い意志を持ってアロンを睨み付けた。


「そうか。なら貴様は地獄行きだな」


 哀れむようなアロンの言葉。

 しかしメローネは聞いてはいなかった。

 握り締めた十字架に向かって確固たる決意で祈りを捧げた。


「……我らが父なる主よ。救いを求めし者達を守るお力をどうかこの私に」


 同時に眩い光を放つ十字架。

 それは教会内を白く染め上げる程だった。



 そして光が落ち着き始めた頃には、そこにメローネの姿はなく、そして少女が抱えていたミユの姿も無くなっていた。


「やれやれ、相変わらず行動の読みやすい女だな」


 アロンは別段驚いた様子もなく開け放たれている教会の扉を見つめていた。


「良かったの? 逃げるようならそのまま見逃せって言われてたから私は何もしなかったけど」


 聖騎士パラディンの少女がアロンの隣へと並ぶ。


「ああ、構わん。あの女が他の子供を置いて逃げるとは考えにくい。ならその後を追えば自ずと目的の場所に辿り着く。で、追跡の方は?」


「ご察しの通り、あの子の髪留めに付与されてた加護は『共鳴タイプ』のモノだから、複製作って追えるようにしといたわ」


 少女はポケットから木をくり抜いて作った即席と思われる十字架を取り出した。

 十字架は白い輝きに覆われているが、徐々にその光は弱まっている。


「どんどん離れて行っちゃってるわね。早く追いかけた方がいいかも」


「よし、なら直ぐに後を追うぞ」


 アロンは胸の十字架を口元へ近づけると、そっと何かを囁いた。

 すると背中に光が集まり始め、一際輝きが強くなると同時に白い翼が現れた。

 少女も同様に背中には純白の翼が生えている。

 それは正に天使の翼と呼ぶに相応しい輝きを放っている。



 2人が翼を揺らすとふわりと宙に浮いた。

 そしてそのまま翼を羽ばたかせて教会の入り口から飛び出そうとした時だった。




「あれ? 反応が消えたと思ったらまた輝き始めたぞ。一体どうなってんだ?」


 目の前に飛び出してきたのは十字架を不思議そうに眺める1人の少年だった。


「あの子供が着けていた加護と対になる加護を持つということは、おそらく悪魔関係者だろう」


 アロンは少年が持つ十字架を見て即座に隣の少女へと命令を下す。


「殺せ」


「了解!」


 少女は腰に刺さった剣を抜き取ると、そのまま躊躇なく少年へと向かって斬りかかった。


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