ど下ネタ
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はこの孤児院で悪魔契約者の子供の面倒を見ているシスターでメローネと言います」
女性の自己紹介にキョウヤも自己紹介で返す。
「あ、俺はキョウヤで、えと、今は旅の途中です」
「そうですか。どうりでこの街では見ない顔でした。もしよろしければうちに泊まっていきませんか? 悪魔契約者ともなると、色々と大変でしょう」
「え! いいんですか!?」
正直、宿のアテなんてないキョウヤにとっては嬉しい誘いだった。
「えぇ、あの子を届けて頂いたお礼ですし、あの子たちも楽しそうですから」
メローネの見つめる先にはルシエルとはしゃぎ回る子供たちの姿がある。
「でも、悪魔契約者の俺を泊めたらメローネさんに迷惑がかかるんじゃ……」
「困ったときはお互い様です。私は悪魔契約者でも、お互い面と向かって話し合えば理解し合える存在だと思っています。他の天使信仰者の方は見つけ次第、浄化による死を望みますが、そればかりでは何の解決にもなりません。貴方だって天使様にではなく、悪魔に頼ったのには、それなりの理由があったのではないですか?」
「まあ、それは……」
キョウヤにとっては悪魔に頼ったというよりは、どうすることも出来ない状態で目の前に現れたのがたまたま悪魔だった。
ただそれだけだったが。
「あの子たちだって、たまたま親に悪魔契約者を持つだけで彼ら自身には何の罪もありません。それを穢れた血だと言って問答無用に浄化しようとするのは愚かな行いです。まずは寄り添い対話をすることで、初めて誰もが笑える世界になるんです」
穏やかにそう語るメローネの姿に、キョウヤはこれまで会った天使信仰者は全員、悪魔崇拝者だったんじゃないだろうか。
ふとそんなことを思った。
それ程までにメローネの姿は聖職者と呼ぶに相応しい雰囲気を纏っていた。
「すいません。また長々と語ってしまいまして。つい昔の癖で……」
「昔は何かされてたんですか?」
「もう、随分と前の話ですが、“聖都”にある天使信仰本部で司祭を務めていました」
「聖都ですか!?」
「ええ」
「実は俺、聖都を目指してるんですよ!」
「そうだったんですか。聖都となると、やはり祈願祭ですか?」
「はい! 次の祈願祭に……、えっと、参加したくて。これまで一度も行ったことがなかったんで」
「そうですか。しかし悪魔契約者が聖都へとなると、他の天使信仰者や聖騎士が黙ってはいないでしょうから、気をつけてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
キョウヤは悪魔契約者である自分のことまで気遣ってくれるメローナに安堵していた。
こんな人が子供たちの面倒を見てくれているなら何の心配も無いだろうと。
「じゃあ悪魔のお姉ちゃんはどうやったら浄化できるの?」
ルシエルを取り囲む子供の1人がそんな疑問を口にする。
「私を浄化か。ふふ、これまた大層な質問だな。そうだな、私を浄化ともなれば天界にある聖剣でも持って来なければ無理だろうな」
「へぇ、じゃあ僕が天使様にお願いして聖剣を持ってきてもらえば、悪魔のお姉ちゃんを浄化できるんだね」
「おい待てそこのクソガキ。今なんと言った? 天使に願う? 私を浄化? やれやれ、どうやら親がいないのをいいことに、既に無垢な幼子への洗脳が始まっていると見えるな」
ルシエルはやれやれと首を振ると、刻印を通してキョウヤを呼んだ。
『おい契約者よ! その女の企みがわかったぞ!』
一拍遅れてキョウヤの面倒そうな声が返ってくる。
『何がわかったんだ?』
『見ての通りだ。将来の悪魔崇拝を担うこの可愛いヒナたちを、その女は自分の欲望のままに穢そうとしておる!! おそらく幼いがゆえに何も知らぬのをいいことに、天使信仰などという悪しき道に引きずり込むつもりなのだろう』
『自分の欲望のままに穢そうとしてるのは、どっちかって言うとお前の方に見えるけどな』
キョウヤにとっては先程から子供たちに、天使がいかに悪い存在かをさり気なく吹聴するルシエルの姿にただただ呆れていた。
そして当のルシエルはキョウヤのツッコみを無視して男の子の相手をしていた。
「そういえば、聖剣だったら僕のお父さんが持ってたよ!」
男の子の聞き捨てならない話しにルシエルが勢いよく食いついた。
「なに!?」
「確かそれでね、女の人を浄化してたの。俺の聖剣と聖水で、お前の穢れた体を浄化してやるって!!」
満面の笑みで答える男の子。
「えっとね、確か僕にもその聖剣がついてて……」
そして自分のズボンを下ろすと、パンツの中を覗き込んだ。
その姿と言葉を聞いていたキョウヤは男の子の親がどういう意味で話していたのかを悟った。
あ、それ完全にど下ネタなやつだ。
「ほうほう、ではそのお主の聖剣とやらを見せてもらおうか」
しげしげと男の子の下半身を見つめるルシエルに、キョウヤはダッシュで男の子の元まで駆け寄ると、下ろしていたズボンを急いで上げた。
「おい待てお前!! 何どさくさに紛れて覗こうとしてんだよ!!!」
幼いとはいえ、ルシエルのやろうとしていたことはキョウヤのいた世界では犯罪になりえる行為である。
「なぜ邪魔をする? せっかくこの子が聖剣を見せてくれると言っておるのに」
不満そうなルシエルの声。
「お前、本物の聖剣とやらが、この子のズボンの下にあると本気で思ってんのか?」
「そんなわけなかろう。ただ、無垢な子供の戯言に少し付き合ってやっただけではないか。契約者とて、逆に幼い女児から、私の穢れな……」
「言わせねぇぞ!! お前何口走ろうとしてんだよ!!!」
完全なるNGワードを口にしようとするルシエルの口を、キョウヤは一切の隙間なく手で覆い隠した。
ルシエルはキョウヤの手を退けようとするが、ガッチリと押さえられているため振り払うことができないでいる。
『わ、私は契約者に分り易く説明しようとだな……』
代わりに刻印を使って弁明を試みるが、キョウヤがかぶせ気味にルシエルの言い分を遮った。
『色んな意味で完全にアウトのやつだよ!! だいたい俺はロリコンじゃねぇって何度言やぁわかるんだ!!!』
『おお、そうだったな。契約者はシスコンだったな。ならこういうのはどうだ、お兄ちゃん、私の下……』
『絶対言わせねぇ!! 絶対に言わせねぇからな!! しかもよりにもよって、なに妹の声色を真似してとんでもないこと口走ろうとしてやがる!!!!!』
ご丁寧にキョウヤの妹の声を真似ながら自分のスカートを捲し上げようとするルシエルを、キョウヤは空いた手で無理矢理押さえ付けた。
呆然とした様子の子供達を無視して、尚もルシエルの際どい発言は続く。
『その割に契約者の心が荒々しく揺れておるぞ? 正直になれ、契約者とて男、そして妹想いの兄であろう? なら、潜在的に妹にエッチな……』
『この口か? この口がそんなふざけた事をほざくのは!? 荒々しく揺れてんのは怒ってんだよ! 間違っても興奮してんじゃねぇよ!!! 俺は妹にやましい気持ちを抱いたことなんて一度もねぇよ!!』
『や、やめてお兄ちゃん! 乱暴にしないで!! 優しくてして!!!!』
またしても妹の声を真似ながら、いやいやと体をくねらせるルシエルにキョウヤの怒りは爆発寸前だった。
「ぶっ殺してやる!!!」
刻印を使うことも忘れて、心の声が漏れ出てしまったキョウヤ。
子供達がビクリとしながら見ているが、そんなことは今のキョウヤには知ったことではない。
今は一刻も早くこの悪魔を何とかしないと。
命を使って一生口が利けないようにしてやろうか。
キョウヤが冗談抜きでそれを実行に移そうとしたその時だった。
「ただいまぁ」
突然誰かの帰りを知らせる声が聞こえて来た。
「あ、お姉ちゃんが帰ってきた!!」
その声を聞いた子供たちがドタバタと部屋を出ていく。




