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少年と悪魔の天使狩り  作者: ぐーてん
第2章 悪魔崇拝者と天使信仰者
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じゃれあう悪魔

「あの、俺って悪魔契約者なんですけど、その……」


 キョウヤは女性に案内された部屋でおずおずと口を開いた。

 部屋には子供たちが10人程駆け回れる広さがあり、先程ミユと呼ばれた女の子と同じぐらいの年頃の子供達が文字通り部屋の中を駆け回っている。


 そして何故かその中に一瞬で子供達と打ち解けたルシエルの姿もあった。

 ルシエルを悪魔とわかっていながら楽しそうにじゃれつく子供達。

 ルシエルも悪魔と関わりのある子供たちに会えたことが余程嬉しかったのか、終始笑顔で子供の相手をしている。


 キョウヤは子供の相手をする悪魔という絵面に苦笑いしつつも、まずは気になっていたことを女性に聞いてみることにした。


「浄化したりはしないんですか?」


 “悪魔契約者には浄化による死を!”。

 キョウヤはボロボロの教会で声高に叫んでいた神父を思い出していた。


「ああ、心配しなくても大丈夫ですよ。ここではいくら貴方が悪魔契約者だからと言って、浄化しようとしたり、聖騎士パラディンを呼ぶなんてことは決してしませんので」


 テーブルを挟んで向かいに座る女性は穏やかな口調でキョウヤへと語りかける。


「そ、そうなんですか?」


 ここへ来る前に散々な目に合って来たキョウヤにとっては少しばかり信じがたい話だった。


「えぇ、あの子たちも貴方と同じ悪魔と関わりを持つものですが、だからと言って無闇に傷つけるような真似はしません。勿論、何か悪さをするつもりなのであれば別ですが?」


 女性は優しい笑みを浮かべたまま冗談交じりに微笑んで見せる。

 部屋の中で遊び回る子供たちに向けるその表情は正に聖母と呼ぶに相応しいものだった。


「い、いえ。そんなことしません! ただ、これまでは話すら聞いてもらえなかったので、ちょっと驚いて」


「悪魔崇拝者ではなく悪魔契約者ともなると色々あったでしょう。確かに世間一般的な天使信仰者の考えでは、少しばかり暴力的になってしまうことが多いでしょうからね」


 おまけにこちらの事情もわかってくれている様子の女性に、キョウヤはこの世界に来て初めて心を許せる相手に出会えた気がした。

 人も天使も、そして最近では口の緩い悪魔にヒヤヒヤさせられていた状況なだけに、キョウヤはホッとしながら差し出されていたお茶を飲んだ。


「あ、それと、さっきあの子が話してたことなんですけど……」


「物を盗もうとしたあの子を止めてくださったんでしょう?」


「あ、はい」


「わざわざありがとうございます」


 女性は静かに頭を下げた。


「い、いえ別にお礼を言われるほどのことじゃ……」


「あの子、最近ここを抜け出しては人様の物を盗んで来て困っていたんです」


「だって、うちってお金ないんでしょ? 私たち養えないんでしょ? だから手伝おうと思って」


 他の子と積み木のような玩具で遊びながら、ミユがここの金銭事情を暴露した。

 どうやら本人にとっては悪気はなくあくまで手伝いのつもりだったようだ。

 女性はミユの言葉にただただ苦笑いを浮かべている。


「今日も朝から姿が見えなかったので、探しに行こうか迷っていたんですが、なにせ他の子を置いて行くわけにはいかず、届けて頂き本当に助かりました」


 女性は再びキョウヤへと頭を下げた。


「い、いえ、当然のことをしたまでですよ」


「優しいのですね」


 優しく微笑む女性にキョウヤは思った。

 こういう人を本当の天使信仰者というんじゃないだろうかと。






「悪魔のお姉ちゃん! 十字架があれば浄化されちゃうって本当なの?」


 1人の男の子がどこから持ち出してきたのか、その手に十字架のペンダントを掲げながらルシエルに見せつけている。


「ああ、本当だ。ただしその程度の加護では私にかすり傷すら負わせることは出来んがな。それでは使い魔を追い払う程度といったところか」


 ルシエルは別の子供を頭に乗せながら、男の子の質問に笑顔で答える。

 更に他の子供に手を引かれながら引っ張りだこのルシエル。

 どうやら、ここにいる子供たちにとっては、本物の悪魔というのは恐怖の対象なのではなく、友達のような存在のようだ。


「おいこら! 勝手に十字架を当てるな!! チクリとしたではないか!!」


「じゃあこれは?」


「だからやめろと言ってる!」






「貴方の契約した悪魔はとても上位の悪魔なんですね」


「え、見えるんですか?」


「いえ、使い魔や魔獣のような下級の悪魔は、例えあの子達でも見ることは出来ないはずですので、それが見えているということは、かなり強力な呪力を保有した悪魔なのかと思いまして。よければ名前を聞いてもよろしいですか?」


 女性の質問に特に疑うこともなくキョウヤは答える。


「名前はルシエルですよ」


「“ルシエル”、ですか……」


「名前に何かあるんですか?」


「いえ、あまり聞かない名前だったので」


 キョウヤはこの時のやり取りを何気ない会話の1つとして気にも留めなかった。

 だから女性の瞳が僅かばかり鋭さを増したことに、キョウヤは当然気付くこともなかった。


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