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少年と悪魔の天使狩り  作者: ぐーてん
第2章 悪魔崇拝者と天使信仰者
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一片の穢れなき純白の布

「お前、なんだよそれ!?」


 ようやく少女の意図を理解したキョウヤ。

 おそらく初めから自分の思い通りにいかなければ、こうするつもりだったのだろう。

 人気のない場所を選び、聖騎士パレディンのいる教会の近くにしたのも全ては祈らせるため。

 確かにこの状況ならいくらキョウヤが言い訳したところで誰も聞く耳は持ってくれないだろう。

 聖騎士パレディンの存在をチラつかせることで、相手に無理矢理祈らせようとしている。


 

 天使が天使なら信仰する人間も人間だな。

 キョウヤはそんなイルミナの姿に心底呆れていた。

 しかしキョウヤはここで疑問に思うことが一つあった。

 どうしてイルミナはそこまでして祈らせたいのか。

 自分のいた世界では祈りは本人が望んで行う行為であり、無理矢理させられた祈りなんて何の意味もない気がする。

 この世界ではそれでも何か特別な意味でもあるのだろうか。

 無い知恵を振り絞って考えてみるがやはり答えは出てこない。

 イルミナは中々祈ろうとしないキョウヤに業を煮やしたのか、更にキョウヤを脅しにかかる。


「さあ早く祈ってください。そうすれば、全てが丸く収まります」


 両手を広げて優しく微笑むイルミナ。

 薄っすらと輝いている十字架とボロボロの姿もあって、その姿はどこか不思議で神聖な存在に見える。

 すう、と大きく息を吸い込みいつでも叫べるぞとキョウヤに訴えるかける。


「こいつ!」


 いい加減怒りさえ覚え始めたキョウヤ。

 しかしここに来て、イルミナの背後で無言のプレッシャーをキョウヤに与えていたルシエルがようやく口を開いた。

 ただし、それは決してキョウヤを助けるためではなく、あくまで悪魔としての忠告だった。


契約者エニシよ。言っておくがその十字架には加護がついておる。ある条件を満たせば対象の魔力を奪える魔法だ。この場合は祈った者の魔力を奪うといったところか。まぁこの世界ではよくある事だ。ただ魔力を奪うと言っても大した量ではないし、たかがしれている。だとしてもだ、契約者エニシよ。言わずともわかっているとは思うが、契約者エニシは私の契約者だ。悪魔と契約した身で一度でもそれに頭を下げるようなことがあれば覚悟しておくんだな。妹想いのお兄ちゃん』


 言って胸に指を這わせるルシエル。

 刻印を通してお前の秘密を見たんだぞというアピールか。


『あいつ!』


「さあ早く」


 さっさと祈れとばかりにイルミナが先を促す。

 しかしキョウヤは祈れない。

 それよりもキョウヤはさっきのルシエルの口ぶりが気になっていた。

 あの事情を分かっていたような話し方。

 どう考えてもこうなる事を知っていて、あえて 黙っていたように思える。


『おいルシエル』


 心の中で悪魔に呼びかけるキョウヤ。


『何だ?』


 遅れて返ってきたルシエルの声はややめんどくさそうにも聞こえる。


『何だは無いだろ! お前、さっきの口ぶりからしてこの女の目的を知ってただろ!?』


『ああ。知っていたぞ。契約者エニシのような間抜けな男を騙して何かを企んでいるだろうとはな』


 間抜け呼ばわりされても現状が現状なためキョウヤは何も言い返せない。


『だったら何で今まで黙ってたんだよ!』


契約者エニシよ。これも勉強だ。知らない人について行っては駄目だと教わらなかったか? とくに下心を覗かせてついて行けばどうなるか、知るにはいい機会ではないか』


『ぐ……』


 下心は全くなかった。

 あくまで困った女の子を助けるため。

 そう言い切れるほどキョウヤは紳士では無かった。

 少なくともイルミナに対して顔を赤くしたり、ドキリとした以上は。


『わかった。俺が悪かった。だから何とかしてくれよ。その、聖騎士パラディンだったか? 厄介な連中なんだろ? 面倒になる前に何とかしてくれよ』


『全く情けない。私の契約者ならこの程度のトラブル自分で何とかしてみせろ。あの程度の女に追い詰められるなど、私は恥ずかしくて恥ずかしくて仕方がないぞ』


『言っとくけど、俺は体力も力も無い普通どころか、平凡以下の人間なんだよ! これまでだって一度でも追い詰められたら、後はなすがままだったしな』


『はぁ、昔いじめと虐待に受け身だったことは刻印を通して知っているが、それは所詮過去の話だろう? 私と契約し、新たな世界へと来たのだ、生まれ変わったと言ってもいい。新たな人生を過去と同じままでいいのか?』


『それはそうだけど、急には無理だよ』


『無理でもやってもらわねば困るぞ。第一、その程度では妹を生き返らせることも出来なければ、妹を連れて行った天使を殴るなんて到底叶わぬぞ』


『それは……』


 確かにルシエルの言う通りかもしれない。

 昔の自分のままで、今でも誰かに頼ってばかり。

 そんなことでは例えルシエルの力があったとしても何も出来ない気がする。

 そう思い唇を噛みしめるキョウヤ。


『一つ悪魔からのアドバイスだ。今の契約者エニシには昔と違い手に入れた力があるだろう。少しは頭を使って戦って見せろ。じゃあな』


『あ、おい!』


 そこでルシエルの声は途絶えてしまった。


「何だよ、手に入れた力って……。もしかしてアダマスのことか? 確かにあれで戦うならルシエルを頼った事にはならないか」


 アダマス。

 ルシエルから借りているとは言え、出し入れにはキョウヤが初めて覚えた呪術『闇の扉』を使っている。

 ルシエルはそれを使って何とかしてみろと言っているのだろう。


「けど、どうしろって言うんだよ。アダマスで無防備な女の子を殴れってか」


 乱暴なことはしたくない。

 その上相手は女の子だ。

 どうしようかとキョウヤが迷っていると、どうやらイルミナの方も痺れを切らしてしまったようだ。


「これが最後の忠告です。今すぐに祈らないなら私は叫びます」


 キョウヤに選択の猶予は無かった。

 普段使わない頭で必死に考える。


 取り敢えずアダマスを使ってイルミナを脅してみる。人を脅したことなんて一度もないし、その時点で悪魔崇拝者と思われるかもしれないけど、そんなことはもうどうでもいい。とにかくイルミナを叫ばないように脅しながら一緒にこの場を離れる。そして聖騎士パラディンの教会から離れたところで、全力で逃げる。

 

 よし、これならなんとか逃げられるはず


 キョウヤにとっては現状考えられる最善の策だったかもしれないが、それはもう完全に犯罪者のそれだった。

 今にも叫び出しそうなイルミナ。

 キョウヤは焦りながらも手を前に突き出しながら何かに集中するようにして掌に力を込める。

 僅かに赤みを帯びるキョウヤの瞳。

 イルミナは突然のキョウヤの行動に驚いたようにビクリと体を震わせた。

 そしてキョウヤが力強く叫ぶ。


「出てこい! アダマス!!」


 呼ばれたアダマスは、待ってましたと言わんばかりに、勢いよくキョウヤの前に飛び出した。


「…………」


「…………」


 アダマスの登場に何故か沈黙するキョウヤとイルミナ。

 何ともいえない微妙な空気が二人の間に降り積もる。

 しかしその原因はすぐにわかった。



 アダマスが現れたのは地面にできた黒く渦巻く小さな闇から。

 それはイルミナの足元。

 つまりスカートの真下だった。

 当然そこからアダマスが飛び出せばどうなるか想像に難くない。

 スカートを思いっきり捲れ上がらせて、イルミナの前に登場した漆黒の棒。

 次第に状況を理解したイルミナが当然の反応を示す。


「キャーーーー!!!!!!!!」


 路地裏に少女の悲痛な叫びが響き渡った。


 この時の出来事を後にキョウヤはこう語る。

 それはそれは天使信仰者に相応しき一片の穢れなき純白の下着だったと。


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