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少年と悪魔の天使狩り  作者: ぐーてん
第2章 悪魔崇拝者と天使信仰者
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天使信仰は素晴らしいんですよ

「えっと、言ってる意味がわかんないんだけど……」


 少女の質問にそう返すのがやっとのキョウヤ。

 実際には言っている言葉の意味はなんとなく分かっていたが、少女の目的がわからない以上そう答えることしか出来ない。


「私は見ての通り天使信仰者で、名前をイルミナと言います。貴方はまだ天使信仰者じゃありませんよね? 良ければ一緖にどうですか? 貴方のように優しい方ならどんな悩みや願いもきっと天使様が叶えてくれますよ」


 少女は優しくキョウヤに語りかける。


「んー、そう言われても今は悩みとか願い事もないしなぁ」


 悩みだらけな上に、叶えたい願い事も勿論あったが、それを今、この状況で目の前の少女に頼ろうとは思わない。

 そもそもこんな人気の無い場所で、しかも逃げ道を塞いだ状態でいきなり天使信仰の勧誘とは失礼にも程があるだろう。

 キョウヤは考えるふりをしながらどうしようかと必死に考える。

 そしてある事を思い出した。


「そう言えば、変な男に付け回されてたって話しはもう大丈夫なのか?」


 既に嘘とわかっていたが念のため確認してみる。


「はい、ここまで来ても誰も姿を見せないですし大丈夫そうです。ありがとうございました」


 深々と頭を下げるイルミナ。

 その隙に逃げようとイルミナの横を通り過ぎようとするキョウヤだが、慌ててイルミナが両手を広げてそれを阻止する。


「ま、待ってください! 貴方にお礼がしたいんです!」


「お礼って言われても……」


 どうせ天使信仰を勧めて来るだけなんだろう。

 そう思い早くこの場を去りたいキョウヤだが、そこで再びイルミナの潤んだ瞳と目があってしまった。

 切実に訴えかける青い瞳。

 そして必死なイルミナの表情に思わずドキリとするキョウヤ。


「えーと、じゃあもう少しだけなら」


 そこで折れてしまうのがキョウヤの良い所でもあり、悪い所でもあったかもしれない。






 それから三十分程、お礼に天使がいかに人々にとって大切な存在であるかを語り尽くされたキョウヤ。

 そして疲れた表情でルシエルに助けを求めるようにイルミナの背後に視線を移す。

 しかしそこにいたのは自分には関係ないと言わんばかりに地面に座り、退屈そうに大きな欠伸をするルシエルの姿だった。


「あいつ、助ける気は全くないな。普通主人が困ってたら助けるのが契約した悪魔の仕事じゃないのか」


 小声でキョウヤが愚痴る。


「……悪魔?」


 イルミナにも微かに聞こえていたのか、キョウヤの視線を追うように自分の背後へと目をやる。

 しかしイルミナにはルシエルの姿が見えていないのか、その存在に気付いた様子はない。

 首を傾げながら再びキョウヤへと向き直るイルミナ。

 やや警戒するように目を細めながらキョウヤへ問いただす。


「貴方もしかして、悪魔崇拝者ですか?」



 悪魔崇拝者。

 その言葉を聞いた途端、キョウヤは背中に嫌な汗が流れるのを感じた。

 自分は悪魔崇拝者になったつもりはないが、こうして悪魔と契約している以上この世界では悪魔崇拝者と認識されるのだろう。

 あの教会でメアリーが自分の胸にある刻印を見てそう言っていたのだから間違いない。

 ただ仮にそうだとしても、それを簡単に認めるわけにはいかなかった。

 キョウヤの脳裏に教会で受けた理不尽な仕打ちが懐かしい思い出のように蘇る。


「ち、違う違う。全然違うから! ただ俺ってそういうのはあんまし信じない方で……」


 キョウヤは慌てて否定する。

 また悪魔崇拝者と疑われれば何をされるかわかったものではない。


「そうですか“無神論者”の方ですか」


 イルミナは安心したような、それでいて残念そうに肩を落とす。

 無神論者。

 またしても聞き慣れない言葉だがその言葉の意味をキョウヤは知っていた。

 簡単に言うと神の存在を否定する者。

 この場合はきっと天使や悪魔の存在を信じない者のことを言うのだろう。

 これ以上面倒事に巻き込まれたくないキョウヤは取り敢えず自分が無神論者だと言う設定でこの場を乗り切ろうとする。


「悪いけど無神論者なんで俺はこの辺で」


 再び少女の脇を通ろうとするキョウヤに、少女がまたしても両手を広げて行く手を阻んだ。


「ま、待って下さい! 私の話を聞いて下さい!!!」


「もう十分聞いたし、お礼ならもう大丈夫なんだけど……」


「無神論者の貴方だって、天使様や悪魔の存在無しに説明できないことが数多くあるのは知っているはずです!」


「そう言われても……」


「魔法だって天使様の加護が無ければ使えません。天使様の存在を否定するなら魔法の存在をどう証明するんですか!?」


 熱く語る少女の姿に無神論者の設定は失敗だったか、とキョウヤは少し後悔した。

 過熱する少女の天使信仰論。

 だが、キョウヤにとってその辺の事情はどうでもいいことだった。


「いや、じゃあ信じるよ。信じる。けど天使信仰をするつもりは無いしそろそろいいかな」


 さすがのキョウヤもいい加減うんざりし始めたようだ。


「だ、ダメです! これまで天使様の加護のおかげで多くの人が救われてきました。人々を癒やし、護り、救いを与えてくださる。人を貶める悪魔を祓うためにも加護が使われてきました。貴方の知らないところで貴方は守られているんです。その恩返しをしてみたいとは思いませんか?」


 少女はキョウヤに詰め寄り、ぐっと顔を近づける。

 間近に見る少女の顔にキョウヤは顔を赤くしながら背けてしまう。


「い、いや多分これまでは加護じゃなくて、運良く生きてこれたんだと思うんだ。というか、守ってもらった記憶が一度もないし、そういうのは……」


 キョウヤは自身の過去を思い返しながらあくまでも天使の存在を否定する。 

 しかしそんなキョウヤの言葉に対して少女が食い気味に言葉をかぶせてくる。


「あなたは!!! あなたは何もわかっていないんです!! 天使様のおかげでどれだけの人々が救われてきたのかを。今の平和な世界に生きていられるのも全ては天使様のおかげなんです。それを無視してのうのうと生きているなんて、罪深いにもほどがあります!!」


 熱を増す少女の声だか、キョウヤにはどうしてもあのふざけたチャラい天使が頭に浮かぶ。

 あれを見た後にいくら天使の素晴らしさを説かれたところで、心に響くものは何もなかった。


 実際の天使の姿を知らずに良くここまで信仰できるな。


 それがキョウヤの率直な感想だった。

 もしくは知ったうえで信仰しているのかもしれなかったが。


「しかしまだ遅くはありません。これから天使信仰者として祈りを捧げ続ければきっと天使様も許してくれます。さあ、この十字架に祈りを捧げて下さい。跪き、頭を垂れ、これまでの無知な自分を悔い改めるんです!」


 胸に下げられた十字架のネックレスを手に取り、キョウヤに祈るよう促す。


「いや、本当そういうのは大丈夫だから。もっと他に救いを求めている人もいるだろうから、そっちを助けてあげれば」


 キョウヤの期待外れな言葉に落胆したのか少女は俯むいてしまった。


 傷付けてしまったか。

 少し心配になるキョウヤ。

 しかし元はと言えば嘘を吐いてこんな所に誘い出し、強引に勧誘してくる方が悪い。

 そう思ったキョウヤは悪いと思いながらも少女はそのままに、その場を後にしようとする。

 だが、目の前の少女は諦めてはいなかった。

 泣いていたのか、少し目尻の赤くなった目でキョウヤを睨むと手に持った十字架をキョウヤに突きつける。


「じゃ、じゃあ天使信仰者にならなくてもいいです! 祈るだけでも構いません! だからこの十字架に祈りを捧げて下さい!!」

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