涙を浮かべた少女
街の中は外から見る以上に多くの人々で賑わいを見せていた。
大通りにずらりと並んだ出店の数々。
何かの祭りでもあるのか人々もどこかお祭りムードのように騒いでいる。
出店にはキョウヤの見たことがない物も多く興味を惹かれるものばかり。
見たことも無い食材に、食べ物かどうかも怪しい料理。
天使の加護が付与されているという十字架や武器の数々。
そして悪魔祓いといったちょっと怪しいものまである。
ゆっくりと見て行きたかったキョウヤだが、今はとにかく宿で一休みしたい。
疲れた足取りで大通りを歩くキョウヤ。
そしてどこに宿があるのだろうと辺りを見回しながら歩いているその時だった。
「助けてください!」
突然キョウヤの胸に飛び込んできた白いローブを羽織った一人少女。
天使信仰者だろうか。
胸には十字架のネックレスが揺れている。
表情はローブを深く被っているためにわからないが、零れる金色の髪の不思議な輝きにキョウヤは思わず見惚れてしまった。
少女は怯えているのだろうか。
肩が僅かに震えている。
「えっと……、あの」
突然の出来事に戸惑うキョウヤ。
どうしていいかわからず隣にいるルシエルに目をやるが、ルシエルも手を上げて首を横に振っている。
「変な男に付け回されてるんです。少しの間でいいんで恋人のふりをしてもらえませんか?」
急な少女のお願いにキョウヤは更に戸惑った。
状況に付いていけない中、今度は恋人のふりをしてほしいと言うのだ。
これまで好きな人が出来たことはあっても恋人なんて出来たことがないキョウヤ。
突然の展開にキョウヤ自身軽いパニックに陥りそうだった。
「いや、でも……」
「貴方のようにカッコよくて高い魔力を保有してそうな方なら、きっと男も諦めると思います。なのでどうかお願いします」
胸の前でギュッとキョウヤの服を両手で小さく握り締める少女。
そんな少女の姿にキョウヤはちょっとした優越感に浸っていた。
女の子に外見と内面を褒められ、更に他の男では無く自分を頼ってきた状況ならそれも仕方がないかもしれない。
加えてまるで小動物のように怯えた少女の姿は男なら誰しもが持つ、守ってあげたいと言う男心をかなりくすぐった。
更に追い打ちをかけるように少女がキョウヤに抱き着く。
必然的に押し当てられる形となった少女の胸の膨らみに、キョウヤの顔が瞬時に赤くなる。
「えっと……」
恥ずかしさもあり声が上手く出せない。
そしてとどめの一撃がキョウヤを突き刺す。
「お願いします」
少女がこれまで俯かせていた顔をばっ、と持ち上げてキョウヤを見上げた。
そこには美少女と呼ぶに相応しい容姿に透き通るような青い瞳。
零れ落ちそうな涙を瞳一杯に溜めながらキョウヤをじっと見つめていた。
最早宿屋で休むことなんてどうでもよくなったキョウヤ。
「えっと、じゃあ少しだけなら」
キョウヤは赤くなった顔を見られないように少女から視線を逸らしつつ、絞り出すように声を出した。それを聞いた少女の顔がパッと明るくなる。
「ありがとうございます!」
満面の笑顔を咲かせた少女にキョウヤも心臓が数段跳ね上がる。
そして言うが早いか、キョウヤの腕に自分の腕を絡めて歩き始める少女。
キョウヤもまんざらでもない表情で少女の横を歩いて行く。
一方、置いてきぼりとなってしまったルシエルはというと、ただ一連のやりとりを黙って見ているだけだった。
周囲を見渡すが少女の言う変な男は見当たらない。
この時点でルシエルには少女の言っている事が嘘だと確信した。
何故なら少女がキョウヤの胸で俯いているとき何をしていたかを見ていたから。
白いローブの内側から取り出した液体の入った小さな小瓶。
中身が何かは分らなかったが、それを軽く自分の瞳にさして、あたかも泣いているように見せていたのだ。
怪しいことこのうえない。
少女もまさかすぐ近くで悪魔が見ていたとは思ってもいないだろう。
ルシエルは浮かれた足取りで少女の横を歩くキョウヤを見て意味ありげに呟いた。
「これも社会勉強の一つだ、契約者よ」
悪戯っぽい笑みを浮かべながらルシエルはゆっくりとした足取りで二人の後を追いかけた。




